家畜伝染病「豚コレラ」の一連の発生で、農水省が野生イノシシにえさ型ワクチンを使うと発表したことに対し、感染が相次ぐ愛知、岐阜両県の関係者や専門家には、期待の声と効果を疑問視する声の両方がある。
豚コレラ
岐阜県内では22日現在、180頭の野生イノシシに豚コレラ感染が確認されている。古田肇知事は「大いに期待する。我が国初の試みであり、スムーズな実施に向けて協力していきたい」とコメントした。愛知県の大村秀章知事も「(具体的にどう進めるか)一緒になって組み立てていきたい」と、国や岐阜県と歩調を合わせる考えを示した。
「イノシシはものすごく警戒心が強い。薬品が入ったえさを食べるだろうか」。岐阜県山県市でイノシシ肉を販売する臼井勝義さん(65)はいぶかる。猟友会とともに捕獲に協力しているが、「イノシシは、わなを仕掛けても人間のにおいに気付いて掘り起こしてしまうほど。えさに薬が入っていたら絶対食わないと思う」。同県高山市の猟師、今井猛さん(67)も「イノシシはなわばりを持っているので、多くのイノシシに投与するには相当な量と手間がかかるはずだ」と疑問を持つ。
愛知県田原市の瓜生陽一さん(53)は、同じ養豚団地で豚コレラが発生した影響で、育てた豚の殺処分に追い込まれた。「蔓延(まんえん)防止の対策が取られることになり、良かった」と話す一方、「豚にワクチンを打った方がいいという気持ちは変わらない」と、国がまだ認めていない豚へのワクチン接種を訴える。
えさ型ワクチンは手作業で土に埋め、約1週間後に回収する必要があるなど、作業の負担は大きい。国は3月の開始を見込むが、愛知県の岡地啓之・畜産課長は「短期間で、となれば経費も労力もかかるが、どのぐらいかは現時点でわからない」と述べた。
専門家の間でも評価が分かれる。宮崎大の末吉益雄教授(獣医学)は「遅すぎるぐらいだが、早く始めることが大事だ」と指摘。「4~5年かけてやれば、岐阜、愛知の養豚場の感染リスクも減らすことができる」と話す。
大阪府立大の向本雅郁教授(獣医感染症学)は「イノシシへのワクチンはドイツなどで成功例があるが、流行を止めるのに7~8年ほどかかった。日本とドイツではイノシシがすむ環境が違い、日本で効果があるかどうかはわからない。やらないよりはやってみた方がいいという判断ではないか」と話す。
東京農工大の白井淳資教授(獣医伝染病学)は豚へのワクチンが必要と指摘する。「山にまいたワクチン入りのエサをイノシシが食べる保証はない。岐阜は日本の真ん中にあり、西日本にも東日本にも感染が拡大する恐れがある。日本の養豚を救うため、区域を決めて豚にワクチンを使用するべきだ」