関西空港の対岸に大阪府が造成した「りんくうタウン」が、分譲開始から30年目で契約率100%を達成した。バブル崩壊でつまずいたが、近年は商業施設や工場が進出し、関空を利用するインバウンド(訪日客)にも期待が集まる。それでも、収支は1千億円を超える赤字になるという。(野田佑介)
関空から連絡橋を渡り、対岸の大阪湾沿いに広がる街並みが「りんくうタウン」だ。大阪府は1日、最後に残っていた1区画(約1・2ヘクタール)について、ホテルを運営する不動産会社と2月28日に売買契約を結んだと発表した。2023年2月までの開業を見込む。
りんくうタウンは1994年の関空の開港にあわせて、大阪府が泉佐野市と泉南市、田尻町の2市1町にまたがる海岸を埋め立て、318ヘクタール(分譲用地130・8ヘクタール)を造成した。商業地域や工業地域、住居地域を備えた総合産業団地だ。現在約180の企業や大阪府の施設などが立つ。
分譲開始は平成が始まった翌年の90年。しかし、バブル崩壊にぶつかり、進出を予定していた企業が相次いで撤退。街開きした96年の分譲用地の契約率は3割程度にとどまった。超高層ビル「りんくうゲートタワービル」(高さ256メートル)は96年の完成当時、西日本一の高さを誇ったが、テナントが集まらず、ビルを建てた大阪府の第三セクターが経営破綻(はたん)した。
ふるさと納税で「100億円還元」を掲げ、返礼品の規制強化に乗り出した総務省と対立している泉佐野市も、りんくうタウン内の施設や空港関連事業の支出で財政が悪化し、ふるさと納税で歳入増を図っているという事情がある。
潮目が変わったのは、分譲ではなく、定期借地で2000年に開業した「りんくうプレミアム・アウトレット」だ。関西一円から買い物客が集まり、集客スポットとして注目された。
これを受け、大阪府は03年度から、土地を20年間借りられる定期借地方式を本格的に導入。04年に「イオンモールりんくう泉南」、07年には「りんくうプレジャータウンSEACLE(シークル)」といった大型商業施設が次々にオープンした。現在、定期借地の土地は全体の38・4%を占める。
契約率が9割を突破した09年度以降は、LCC(格安航空会社)の関空就航や、訪日ビザの要件緩和に伴うインバウンド需要が後押しした。関空の出入国者数は、94年9月の開港翌年の約807万人から、18年は過去最多の約2200万人まで増えた。
今後も勢いは続く。年内にスケートリンクとカーリングレーンを併設した「関空アイスアリーナ」がオープン。今年秋ごろには、旅行会社のHISが約100室、20年夏ごろにはホワイト・ベアーファミリーが700室のホテルをそれぞれ開業する予定だ。
さらに24~25年には、国際会議や学会、見本市などを開くMICE(マイス)施設を核とし、ホテルや住宅、商業施設が入った複合型施設もオープンする予定だ。
大阪府によると、現在も進出を希望する企業から相談が寄せられるが、空きがないので断っているという。「分譲当初からすれば、いまの状態は想像もできなかった」(担当者)。
契約率100%を達成したりんくうタウンだが、当初想定していた分譲事業の収支としては大赤字だ。
大阪府は土地の造成に総額5672億円を投じた。資金は企業会計の起債(借金)と他の造成事業の利益を充てたが、バブル崩壊で地価が値崩れしたことが響いた。1平方メートルあたり131万円で売り出した商業用地は、現在20万円程度まで下がっているという。企業会計を廃止した11年度時点の赤字は1551億円にのぼり、他の造成事業の利益で損失を穴埋めした。
12年度以降、分譲による売却…