内戦が続くシリアで、反体制派の最後の大規模拠点となっている北西部イドリブ県周辺の戦闘が激しくなっている。市民の被害を避けるため、非武装地帯をつくる条件として排除されるはずだった過激派組織が逆に勢いを増し、アサド政権軍側が攻勢を強化。かつて化学兵器とみられる攻撃に苦しんだ市民らは、再び行き場を失っている。(イスタンブール=其山史晃)
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ボン! 電話の向こうで爆発音が響いた。2月28日夕、イドリブ県南部ハーン・シェイフンのアブドルハミド・ユセフさん(30)は、朝日新聞の電話取材にこう応じた。「ロケット弾が撃ち込まれてる。地下に入るから少し待って」
ユセフさんによると、政権軍側の砲撃は2月12日から特に激しさを増した。市民らの大半はトルコ国境に向けて逃れ、周辺はほぼ無人状態になっている。ユセフさんが経営していた携帯電話店が入居する建物は片側のコンクリート壁が崩れ落ちた。中にあったパソコンや20台以上の携帯電話が使い物にならなくなり、被害額は6千ドル(約66万円)以上という。
ハーン・シェイフンは2017年4月、猛毒サリンを使ったとみられる空爆を受け、住民80人以上が死亡した場所だ。
「市民狙わず、前線でやれ」
ユセフさんはこの空爆で妻(当時24)と生後9カ月の双子を一度に失った。今回の砲撃では、両親と再婚した妻をトルコ国境近くに避難させた後、自らはハーン・シェイフンに戻った。「生まれ育ち、家族の思い出が残る土地を離れるつもりはない。戦争なら、市民を狙わずに前線でやれ」と憤った。
大学生のアミンさん(30)が住んでいたハマ県北部の村も2月12日に政権軍の砲撃に見舞われた。村は前線に近く、反体制派や過激派も応戦を始めた。驚いた住民らは林の中に逃げ込んだり、走れない老人が通りで泣き叫んだりとパニック状態に陥ったという。
アミンさんはすぐに妻を連れて車でトルコ国境近くに逃れたが、当面は村に戻るつもりはないという。「このまま戦闘がエスカレートすれば、本格的な軍事作戦が始まるのではないか」と不安を語った。
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