私的な損失を日産自動車に付け替えるなどしたとして会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された同社の前会長カルロス・ゴーン被告(64)が6日にも、勾留先の東京拘置所から保釈される。東京地裁が保釈保証金10億円の納付を確認すれば、昨年11月19日の最初の逮捕から108日目で身柄拘束を解かれる。
カルロス・ゴーン もたらした光と影
東京地裁は5日、ゴーン前会長の保釈を認める決定を出した。東京地検は同日、決定を不服として準抗告を申し立てたが、地裁が同日深夜に退けた。弁護側は準抗告の棄却後に保釈金を納める方針だったため、納付手続きは6日以降にずれ込んでいた。
東京都葛飾区の東京拘置所には同日朝、国内外から大勢の報道陣が詰めかけた。保釈されるゴーン前会長の姿を捉えようと、10段ほどの大型脚立がずらりと並んだ。テレビカメラのレンズはすべて、ゴーン前会長が出てくるとみられる数十メートル離れた建物の出入り口に向けられていた。午前9時ごろ、保釈の手続きを担当している高野隆弁護士らが拘置所を訪れ、午前11時40分ごろにタクシーで去った。ゴーン前会長と接見し、保釈の手続きなどについて確認したとみられる。午前10時40分ごろには、フランス大使館の車が拘置所内に入り、約1時間半後に拘置所を後にした。報道陣は昼すぎには200人を超えた。
ゴーン前会長の保釈が認められたのは5日昼すぎ。直後から報道陣が集まり出し、拘置所は敷地の一角を報道向けの「臨時待機場所」として開放した。拘置所総務部によると、敷地内の一部が取材用に開放されたのは初めてだという。
日産を巡る一連の事件では、昨年12月に日産前代表取締役のグレッグ・ケリー被告(62)が保釈された際にも大勢の報道陣が集まり、拘置所に面した道路の歩道で取材していた。近隣から、住民の通行の妨げになっていると拘置所に苦情が寄せられたため、必要に応じて開放することに決めたという。
拘置所には海外メディアの記者らの姿もあった。
ドイツなど欧米を中心に映像を配信しているフィリピン人のフリージャーナリスト、リチャード・デグズマンさん(44)は「保釈されることに、同じ人間としてまずほっとした。日本での勾留は外国人の立場からすると長すぎる」と話す。「ゴーン氏に日本の司法制度についての意見を聞きたい。海外と比較することは、日本人にとっても司法制度について議論するよい機会なのではないか」
ロシア国営テレビ東京支局長のセルゲイ・ミンガジェフさん(41)は「ゴーン氏が今後どのように自身の身の潔白を証明するつもりなのか、日産の陰謀説についてどう考えるかを聞いてみたい」と話す。無罪を勝ち取った場合、日産に戻る気があるのかどうかも注目しているという。
5日から拘置所でゴーン前会長の保釈を待つロイター通信の記者ティム・ケリーさん(50)は「ゴーン氏の保釈は世界のトップニュースになるだろう。最初に聞きたいことは、『自由になってどうですか』だ。ゴーン氏が記者会見で日本の世論に無罪を訴えるのか、静かに沈黙を保つのか、マスコミ戦略が始まる」と分析した。
ゴーン前会長の保釈条件
・保釈保証金10億円
・住居は東京都内に制限
・住居の出入り口に監視カメラを設置
・海外渡航は禁止。パスポートは弁護人が保管
・インターネット接続不可。携帯電話のメールも禁止
・事件関係者との接触禁止
・パソコン作業は弁護人の事務所で行う