トヨタ自動車の2019年春闘の賃上げ回答は、非正社員を含めた全組合員平均で月1万700円だった。労組の要求より1300円少なく、前年実績も1千円下回った。一方、現役に近い待遇で働ける定年再雇用者の拡大や、期間従業員の待遇改善など、「人への投資」を充実させた。
会社が前年、ベア額を非開示としたことを受け、労組は今春闘でベア要求額を明示しなかった。会社は13日、「(1万700円に)含まれている」と説明したものの、具体額は今年も開示しなかった。
2月からの労使交渉では、競争力強化の方策について議論が交わされた。労組が求める一律の賃上げに会社が難色を示したうえ、一時金が夏分のみの回答という異例の形式だったこともあり、議論は回答当日の早朝までもつれた。(竹山栄太郎)
トヨタ自動車、労使が会見
トヨタ自動車の労使が13日午後、愛知県豊田市内でそれぞれ記者会見した。主なやりとりは以下の通り。
トヨタ自動車の上田達郎執行役員(総務・人事本部長)
――ベア額は、前年と比較してどうなのか。
「賃金がいくら上がったかではなく、賃金の根っこから(総額)の議論が大切だ。差額より絶対額がどうかを見ていくことが、日本全体を元気にしていくことではないかと思う」
――トヨタ式のやり方はグループ内外に広がるか。
「トヨタの労使交渉は1年の総決算であり、労働条件の交渉をずっとしているわけではない。それぞれのグループ会社の労使に理解いただくため、今回(1月に始めた自社運営のインターネットメディア)『トヨタイムズ』で労使交渉の内容を紹介した。『何百円の攻防』といった話し合いではないと理解してほしい」
――冬賞与の協議が秋に持ち越された理由は。
「先行きが不透明とか、そういうことでは全くない。(危機感を持つ)トップの思いに会社、組合の双方が追いついておらず、いまの段階で結論を出すのは時期尚早だと判断した」
――トヨタの春闘の位置づけと、今後の方向性は。
「春闘の目的は、労使相互信頼のもと、会社の発展と従業員の労働条件の維持向上がなされ、日本のものづくりが守られることだ。いまのスタイルが一番いい方法なら続けるし、改善した方がよければ改善する」
トヨタ自動車労働組合の西野勝義執行委員長
――労使交渉を振り返った感想は。
「『生きるか死ぬか』の状況のなかでいかに競争力を上げていくか、会社側と本音の議論をした。(賃上げのうち)全員に配分される部分や、夏のみの回答となった賞与をめぐり、回答当日の早朝ギリギリまで交渉が続いた。個別の賃金課題について前向きな回答もあり、受けとめとしては下向きというわけではない」
――賃上げ額の回答は、前年を1千円下回った。
「見た目ではそう受け取られるが、中身が違い単純に比較できない。特段そういう見方はしていない」
――会社側は全員一律の配分に難色を示していた。
「中身の詳細は控えたい。よりがんばった人に報いていきたい、そういったところに配分していきたいという会社の考え自体は否定するものではない。今後、労使で専門委員会を立ち上げて議論するが、職場ともキャッチボールをしながら議論を進めていく」
――会社側から「トップの思いに追いついていない」という話があった。
「危機感についてトップとの間で少し隔たりがあり、我々の主張が会社の期待するレベルに達していなかった。競争力強化に向けて何をすべきか、職場と一緒に取り組みたい」
トヨタ自動車の賃上げの例
現役に近い待遇で働ける定年再雇用者を拡大
期間従業員に食費補助手当を導入
期間従業員から正社員に登用された人の賃金を是正
チームリーダー手当を7千円から1万円に増額
(全組合員平均で1万700円の賃金増額)