春闘は13日、大手企業の集中回答日を迎えた。基本給を底上げするベースアップを6年連続で実施するとの回答が多いが、その上げ幅は電機や自動車など輸出産業を中心に前年割れが続出した。政権が賃上げを促す「官製春闘」は薄らぎ、労使のベアへのこだわりは後退。景気が縮む局面に入った可能性があるなか、60年余り続く春闘は、岐路を迎えた。
「交渉の環境が日増しに悪化するなかで、最大限の回答を引き出した」。電機や自動車などの大手の労組でつくる金属労協の高倉明議長は13日、米中の貿易摩擦や中国経済の減速などに触れて、そう評価した。
電機では、統一交渉にあたった12社が、前年より500円低い月1千円のベアを回答。労組は3千円を求めていた。自動車では、日産自動車が前年と同じベア3千円を要求通りの満額で回答した一方、ホンダは前年より300円少ない1400円、スバルは300円少ない1千円だった。
マツダは定期昇給とベアをあわせて月9千円の賃上げと年間一時金5・2カ月分を求めた労組に対し、いずれも満額回答で応じた。ただ、ベア額は公表しなかった。
長く「相場役」を務めてきたトヨタ自動車はベアを開示せず、一時金は夏分のみ回答。冬分はさらに話し合う。トヨタが一時金を通年で回答しなかったのは1969年以降初めて。「トヨタの置かれた状況認識の甘さ」を労組に指摘した。
トヨタは3月期の純利益を1兆8700億円と見込む。高水準だが、マイカー需要をIT企業の移動サービスに奪われかねない。デジタル化への危機感は、多くの経営者に共通する。
政権が賃上げを促し、経済界が応える「官製春闘」は6年目だ。しかし、昨春に経団連会長に就いた中西宏明氏(日立製作所会長)が異議を唱えた。ベアへのこだわりを薄め、賞与や手当を含めた「年収ベースの交渉」を訴えた。政権も昨春は3%とした賃上げ目標を今春は掲げなかった。
労組側も今回、自動車総連が、ベアの統一要求を見送り。連合は「ベアだけではなく賃金の絶対水準」を重視した。「35歳で月に約30万円」といった具合だ。今後、交渉が本格化する中小企業との水準格差を縮めるため、と説明しているが、共闘に効果的かどうかはまだ分からない。
春闘は賃上げの交渉力を高めるため、同じ時期に各労組が団結し、要求や回答を公開してきた。その「終焉(しゅうえん)」が言われたことは、過去にもある。
一つは1975年だ。第1次石油ショック後の物価上昇を抑えるために、労使が賃上げ抑制で合意した。
ITバブルが崩壊した後の2003年には、連合などが統一ベア要求を見送った。春闘で、ベアが再び注目されるようになったのは今の安倍政権になってからだ。政権の介入が後退した今、新たな春闘像を描ききらなければ、「終焉」が近づく。