3月上旬、石岡一のグラウンドでスクワットをする集団の中に、ひときわ小さい部員がいた。「1、2、3、4!」。少し高いかけ声を出すのは、野球部唯一の女子選手、浜田芽里(めりい)さん(2年)。肩に乗せた重りは男子と同じ20キロある。規定で公式戦には出られないが、甲子園をめざして、共に汗を流してきた。
動画もニュースもたっぷり! 「バーチャル高校野球」
浜田さんは少年野球チームのコーチをしていた父の影響で、小学1年から軟式野球を始めた。盗塁やバントなどの小技を生かし中学ではレギュラー。女子野球部がある高校に進学するか最後まで迷った。その高校は県外にあり、通うとなると親の負担も気になった。
決め手になったのは、2人の兄が石岡一野球部だったこと。今でも練習に付き合ってもらう4学年上の兄は、2016年春の県大会で2位になり、関東大会に出た時の主将。2学年上の下の兄とは、入部すれば一緒に練習できる。県外に通う通学時間を練習に回し、兄と同じグラウンドに立ちたいと、同校を選んだ。
身長154センチでポジションは二塁手。高校でも、練習は男子とほとんど同じメニューをこなした。練習の合間、マネジャーが用意した炊きたてのご飯にふりかけと卵をかけてかきこむ。小学生の頃から男子の中でプレーしているので、自分の中で違和感はない。
一方、打球の飛距離や遠投の距離、体力で差を感じることも増え、比較して落ち込むことも。昨秋の県大会、仲間が2年連続甲子園出場の土浦日大や優勝候補の明秀日立を次々と撃破。吹奏楽部の応援が球場いっぱいに響いた。入学時に割り切ったはずなのに、うらやましかった。
でも、練習試合に出られた時のうれしさは、そのくやしさを上回る。「がんばれよ!」と声をかけられると力がわく。川井政平監督(44)は、高野連の規定で公式戦に出られないとわかった上で練習に向き合う姿に「野球が誰よりも純粋に好きというのが伝わってくる」と話す。
浜田さんは目標をこう定めた。「飛距離より短打。どのコースでも打ち返せるようになる」。高校でプレーを磨き、女子プロ野球に進むのが夢だ。
1番上の兄からは「兄弟で誰もかなえられなかった夢。楽しんでこい」と声をかけられた。「出られなかった選手の分、兄の分まで、甲子園の土を踏みしめたい」(高井里佳子)