選抜大会に臨む津田学園の野球部員約50人のうち、中勢以南や三重県外出身の15人は学校近くの野球部寮で生活する。監督や寮母といった大人はいない。自主性を育む生活が高校生としての成長につながっている。
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寮は、鉄筋3階建てのマンションの2、3階にある。寮生は2人部屋で生活。洗濯や朝食の用意は各自で行っている。
寮長は、同じ部屋に住む松尾夏希選手(3年)と岩戸隼樹選手(2年)。門限の午後9時までに仲間が帰宅しているか確認したり、食堂の鍵を開けたりするのが仕事だ。
2人は中学時代、愛知県で同じチームに所属していた。佐川竜朗監督は親元を離れた生徒が孤独を感じないよう、中学時代からの仲間を同部屋にするなど気を配る。松尾選手は「初めは家族と離れて不安が大きかったが、今は寮のみんなが家族みたいな存在です」。
寮生たちが最も楽しみにしているのは、やはり夕食の時間だ。
「俺は1・2キロ」「こっちは1・3キロだ」。選手は米が山盛りのどんぶりを体重計にのせて競い合う。ご飯の上には、唐揚げやエビフライを盛り付ける。
「食堂」は寮から歩いて1分ほどの場所にある佐川監督の自宅1階。寮生専用の大きな冷蔵庫もある。料理は1年生が2人1組になって当番制で作り、寮生全員が並んで食べる。だが、佐川監督自身は同席しない。「選手も愚痴も言いたいときがあるでしょう」
食卓では寮生の笑い声が絶えない。不動の4番の前川夏輝選手(3年)も「前川、全然食べていない」といじられ、「さっきお菓子を食べたし」と笑って返した。
夕食後は同部屋の2人が仲良く音楽番組や映画を見てリラックスすることもある。寮の駐車場でバットを振り込む部員もいる。
厳しい規則や上下関係はない。自主性や周囲への感謝が自然と芽生えてくるのが、寮生活の強みだ。選抜では背番号5を付ける松尾選手は「洗濯や料理をしていると親のありがたみがわかってきました」。甲子園で活躍する姿を離れて暮らす家族に見せて、恩返ししたいと考えている。(村井隼人)