新年度、人事異動や新しいプロジェクトなどに伴い、様々な会議に出席する機会も多いことでしょう。でもとかく会議というと、時間ばかり長くて何も決まらない。上意下達で現場からのアイデアが通らない――。会議はカイシャを映す鏡。無駄な会議を減らし、実のある議論をするためにはどうすればいいのか。みなさんと考えます。
【アンケート】カイシャの会議
67万時間 15億円のムダ
1万人規模の企業では、1年間に約67万時間、約15億円も「ムダな会議」に費やしています――。大手人材サービスグループの研究機関「パーソル総合研究所」と立教大学の中原淳教授(人材開発)は、6千人のビジネスパーソンへの調査から、ムダな社内会議による損失の推計を出しました。
調査はインターネットを利用し、所属する企業の規模や役職、ムダだと感じている会議の時間や、そこで起きている問題などについて尋ねました。すると、企業規模が大きくなるほど会議の数は増加。役職が上がるにつれ、参加しなければいけない会議が増えていました。
「ムダ」だと感じる要因として強く影響していたのは、「会議が終わっても何も決まっていない」こと。続いて、「終了時刻が延びる」「ささいな議題で会議を開く」でした。
一方、「ムダ」という感覚を減らす要素は、「会議時間に制限が設けられている」「終了時、司会者が、会議で決まったことと次に行うことを明確にしている」が上位でした。
さらに、議事録の作成や、遠隔地からテレビなどを通じて会議に参加してもらうことも、「ムダ」と感じるケースを増やしている傾向も浮かびました。
中原教授は「議論する必要があるテーマなのか、どんなゴールを目指して話しているのか、なぜここに自分がいるのか、という三つの疑問が重なり、ムダな会議ができあがる。働き方改革の中で、会議は最もムダを削れるものの一つですが、会議のマネジメント方法を多くの人は学ぶ機会がありません」と話します。「ムダ」な会議が多くなる理由については、「同調規範が強いため、本音ではムダだと思っても、『非常識なやつだと思われる』ことを恐れて言い出せず、誰もが望まない結果になる。日本の会社組織の流動性が低いこととも、密接に結びついている」と分析。「でもそれでは、意思決定のスピードが遅すぎて、競争には勝てません」
今回の調査では、時間や費用を「見える化」し、経営者層に「会議の見直し=会社を伸ばすために取り組むべき経営課題」だと理解してもらいたかったそうです。「非効率的な会議は、メンバーのやる気をも奪う。あなたの企業で同じように推計を出してみてはいかがでしょうか」
業績が好調な企業では「意思決定する会議」が多く、下降している企業では「情報共有の会議」が多いという調査もあります。JR東海の子会社「JR東海エージェンシー」が2016年、20~60代の企業で働く男女計1千人にアンケートした結果、「意思決定する会議」がよく実施されている、と答えた人の割合は、自社の業績が「上昇している」という人では6割超で、「下降している」という人では4割弱でした。担当者は、「きちんと会議が出来ている会社は業績もよい、という、肌感覚に合った結果になりました」といいます。
また、業績が下降している企業では、そうでない企業より会議の回数が多く、時間も長い傾向でした。
中原教授は「自分たちの課題を見定められている企業は、その解決に取り組むことができ、業績も上がる。だが解決すべき課題がつかめていないと、情報共有するだけで何も決められず、業績が下がる」。
でも、「何が課題か」を見つけることが一番難しい、とも指摘します。「会議ではまず、全員がそれぞれの考えを出し合う『対話』を。そこで『課題』を見定めて議論した上で、最終的には管理職が結論を出す必要がある。『対話』と『議論』のバランスが大切です」(丸山ひかり)
見える化 AIが改善案も
日本マイクロソフトでは会議の「見える化」を進めています。
同社のオフィス向けソフト「オフィス365」に搭載された「マイアナリティクス」という機能では、毎週、「会議時間」「メール処理時間」「残業時間」「フォーカス時間」(集中して作業する時間)などがそれぞれ何時間あったか、データやグラフで可視化されます。メールやスケジュールなどから集めたデータが元になっています。
特徴は、AIが働き方の見直しを提案してくれること。例えば、会議中にメールなどの「内職」をしている時間が長いと、「この会議に出る必要はありますか」。同じ部署の同僚と同じ会議に出ることが多いと、「どちらか1人でいいのでは」。こうした提案を採り入れることで、同社が16~17年に行った実験では無駄な会議を27%削減できたそうです。
データを見ることができるのは本人のみ。上司や人事なども見ることはできません。同社コーポレートコミュニケーション本部長の岡部一志さんは「管理するより、本人の気づきが大切」と話します。
同社は11年ごろからテレワークなどの働き方改革に力を入れていますが、それでも以前は無駄な会議が多かったそうです。「見える化」の結果、常に働き方を見直す文化が根付き、会議の基本の時間単位も1時間から30分に短くなる、などの効果がありました。
「見える化」と並行して、同社は会議のほとんどをオンライン化しています。会議室に出席できる人は出席しますが、パソコンやスマホから全員がテレビ電話をつなぐことで、社内外の別の場所にいても参加できます。資料やウェブ上のホワイトボードなども同時に共有されるため、疎外感もありません。本来は顧客のところに行きたい営業の担当者が、会議のためだけに帰社する、などが減ったといいます。
岡部さんは「会議はもはやその場にいなければならないものではなくなりました」と話します。
意思決定のあり方 変える視点を 軽部大・一橋大イノベーション研究センター教授
製造業でもサービス業でも、企業活動とは、顧客に課題解決の手段を提供し、対価を得ること。会議も含めた企業内のコミュニケーションは本来、顧客が直面する困りごとの解決策を生み出すことが目的のはずです。
また企業には協働組織として動く以上、内部調整は必要ですが、それが過剰になると顧客のために割く時間が減る。そんな過度な内部調整の負担をいわば「組織の重さ」の一要素ととらえ、学内チームで研究してきました。2004年度から隔年で日本の大手企業の計500超の事業部を調査しました。
組織を重くする原因は、1人でも反対したら決まらないような和を重んじ過ぎる態度や、口は出すが責任をとらない社員に対応し過ぎることなどです。こうしたことの程度を聞く12の質問を調査先の事業部に所属する担当者から管理職までの複数社員に行い、結果を数値化し、「組織の重さ」として事業部間で比較検討しました。
分かったのは、組織が重い事業部ほど収益性などの組織成果が低い、という傾向です。また良い社内情報でも悪い情報でもトップと現場の間で情報の流れが悪い組織や、情報を直接の上司部下の関係以外から入手することが多い組織も、重くなることが分かりました。
意外だったのは、日頃から事業計画を参照して仕事を進める組織ほど「軽い」こと。事業はやってみてはじめて分かる部分も大きく、事前の計画に縛られすぎるマイナス面もあると思いましたが、各社員が計画を参照することで自らの立ち位置ややるべき事を確認できる利点があるのかもしれません。軽い組織ほど、現場に近い人たちが組織に対して影響力を行使できると思う傾向が強いことも分かりました。
物事が決まらない、無駄な会議の多い組織は重いはずです。そんな会議の改善は重要ですが、進め方やスタイルにとどまらず、より根本的に重要なのは「これまでの意思決定のあり方を変える」という視点を持つこと。経営者が先頭に立って未知なる顧客の声を拾い、直面する課題は何かを明らかにすることがその出発点になると思います。(聞き手・長野剛)
効率悪い「全員野球」
朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。
●確認事項もフル参加
「全員野球」「チーム一丸」という方針のもと、わずかしかかかわりのない案件の細かな相談や確認事項も含めた打ち合わせや会議にフル参加するため、情報共有のメリット以上に効率の悪さを感じてしまう。突発的な打ち合わせや、社内上層部の「いま、知りたい」に対応するために奔走することも多く、対外的には何の影響も出ない内部業務の多さに、生産性の低さを感じることが多い。(製造業 東京都・30代女性)
●会議で仕事した気に
いやあ、今日は朝から長い会議3連チャンで昼メシも食えなくてさー、まいっちゃったよぉ、と、どこかまんざらでもなさそうな上司。たいそう仕事をした気になってるその姿は滑稽ですらある。会議はそのものが目的化しているうちみたいなカイシャ、業績が低迷するはず。(サービス業 埼玉県・40代男性)
●リサイタル状態
権限者が介入し、活発な論議が生まれない。リサイタル状態となる。(製造業 東京都・50代女性)
●責任も実行も伴わない
全ての会議ではないが、「決まった」ことが守られない会議が多々あることが課題。また、誰がどのようにして「決める」のかが不明。合議のような体裁をとりながら、実際には誰か「偉い人」がエイヤ!と決め、決定責任が誰にあるのかも不明。結果、実行を伴わない。会議にかけた時間も、その準備にかけた時間も無駄になる、ということがままあります。(メディア 東京都・40代男性)
●根回しで結論ありき
「会議で決定した」という記録を作るための会議。事前の非公式な打ち合わせと根回しで結論は決まっていて、提案されたものを了承するだけ。会議そのものの時間は短く済むけれど、新しい提案は出しにくいし参加者の意見が深まらない。(その他 埼玉県・40代女性)
●横道にそれ戻らぬ本題
普段一緒にいない人同士が多いので、とにかく話が横道にそれる。いったんそれたらしばらく本題に戻ってこない。お互いの情報収集もあるのだろうが、それは他でやっていただいて、会議では議事の話だけにしてほしい。(サービス業 島根県・60代男性)
●その場で考え出す上司
会議の場になって初めて議題について考え出す上司がいると、必然と会議が長くなる(上司が考え中の待機時間)。前もって自分の考え・意見を頭の中で整理してから会議に臨んでくれれば時間短縮できるのにといつも思う。(IT、ベンチャー 神奈川県・30代男性)
●「女性の意見も」は変
「女性の意見も取り入れます」ということ自体が変。同じ会社員なのにそもそも「女性」というくくりを作っています。関係なしに意見の言える状況がない。こんな言い方をすること自体「女性の意見」と「男性の意見」では重みが違うってこと。とにかく、男性の年寄りは頭が固く既得権益(男性というだけで偉い)を無意識に守ろうとするので、「女性」「若者」の意見が分からない年寄りは勇気ある撤退をすべきだ。(その他 神奈川県・40代女性)
●ダラダラ会議でアイデアも
書面会議(メールなど)で案を審議。締め切り日までに特段意見が出なければ可決。とても良いシステムだと思った。対面会議をするならアジェンダをはっきりさせて時間制限をつけるくらいしても良いと思う。多忙な中スケジュールを合わせて会議してもラチがあかないことも多々あるので。ただ思わぬところ(i.e.ダラダラ会議)から議論や新たなアイデアが浮かぶこともあるので全ての会議を効率化すれば良いという訳でもないので、そこも難しいところ。(官公庁、諸団体 福岡県・30代女性)
●決める内容を決める
以前直属の上司だった方が非常に優秀で、会議に優秀なファシリテーターがいると非常にスムーズに進むことを体感できた。それ以来、会議の目的、決めるべき内容の確定、議題と脱線した話の修正、決まったことを誰が・いつまでに・どうやってやるかを決めるように心がけている。うまくいくと今まで1時間程度かかっていた会議が15分ほどで終わるが、しゃべりたがりの役職者がいるとなかなかうまく進まないことが多い。個人レベルの努力だけでなく、会社全体の方針として「会議」についての方針を決めて意識を変えていくことも重要だと感じる。(製造業 宮崎県・20代男性)
●リード役を持ち回りで
発言者については、時間を制限するが、自由に発言させる。話題が議事からそれだしたら直ちに元へ戻すなど、会議をリードする役割を持ち回りでやってもらう。こうすると、短時間で深く議論できるし、結論を得ずとも、次回への論点整理が各自にできてくる。以降の会議は、早くて結論が出てくることが多くなった。(官公庁、諸団体 大分県・60代男性)
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弊社のとある会議。いつも雰囲気が硬く、あまり意見も出ません。ある時、いつもの大会議室から場所を変えて、小さなソファでひざ詰めになってみると、思いもよらず活発な議論が生まれました。小さな工夫が大きな効果を生むものだな、と印象的でした。
今回、効率的な会議の秘訣(ひけつ)をさまざまな企業に聞いてみましたが、突き詰めれば、「資料を事前にきちんと読んでおく」「会議の前に目的を設定する」「全員が議論に参加する意識を持つ」など、一見小さな、地味で当たり前のことばかり。でもその当たり前のことに常に取り組み、見直し、改善していました。「いい会議」への道は、小さなことからコツコツと、なのかもしれません。(栗林史子)
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アンケート「カイシャの会議」を
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