沖縄・辺野古での新基地建設について尋ねた朝日新聞デジタルのアンケートで、「埋め立てを中止し、国民が一から議論し直すべきだ」という意見が8割近くに達しました。県民投票で示された沖縄の民意を、ヤマト(本土)の人々はどう受け止めればいいのか。沖縄で市民運動に携わってきた安里長従さん、憲政史家の古関彰一さんに聞きました。
議論の広場「フォーラム」ページはこちら
そもそも論から議論を 「『辺野古』県民投票の会」副代表 安里長従さん
県民投票の結果にかかわらず工事は強行されると言われていながら、5割を超える人々が投票所に足を運んだ。そのことは反対の意思を示すというだけではなく、自分たちで決めたい、という思いの表れだと思います。
国土の0・6%に70%の米軍基地があるということは単に面積の問題ではなく、沖縄と「本土」との自己決定の自由の格差。県外への移設は「本土」の理解が得られないという政治的な理由で、沖縄の民意は無視されてきました。それに対して県民投票で示したことは、辺野古の新基地建設は「差別」であり、やめるべきだということです。むろん普天間飛行場の固定化など県民は望んではいません。
それでも国民の認識が変わらなければ「辺野古が唯一」という政府の理屈は瓦解(がかい)しない。「本土」に投げられたボール、とは普天間の移設先は沖縄以外の都道府県か、それとも国外か、そもそも米海兵隊は日本国内に駐留する必要があるのか、について国民的な議論を始めることなのです。
「本土」に移設するにしても、はじめから特定の候補地が挙がれば地元の人は反対し、そのほかの地域の人は自分事とは考えません。まずは民主主義の原則を踏まえ、基地はどれだけ必要なのか、という議論が求められているのです。
その上で、日米安保体制の是非や日本の安全保障をどうしていくか、はもちろん沖縄だけでは決められません。国民的議論によって決定すべきなのです。
「構造的差別」を反省 憲政史家 古関彰一さん
沖縄と「本土」には「痛覚の落差」があります。「平和憲法」制定時、沖縄の人々には国政選挙権さえなく、復帰の時には沖縄の米軍用地確保のために適用される新たな法律がつくられた。県民の多くが知る「構造的差別」を「本土」の私たちはほとんど意識せずにきました。
今よりも多くの人が日米安保に関心を持っていた1970年代も沖縄の基地問題はあまり論じられませんでしたが、辺野古埋め立て、県民投票が報道されたことで、「本土」の人がやっと関心を持ち始めたと言えるでしょう。
日米安保の問題に一県の反対など意味がないと言われるのに対し、沖縄は県民投票によって「それは違う」と言い表しました。政府がやろうとしていることは地域を破壊することなのだ、と。
基地の土地面積だけではなく、爆音や危険、さらに米軍の事件事故は際立って多く、日米地位協定で捜査も制約される。生活も環境もおびやかされてきたことを、辺野古の問題ではっきりさせたのです。
「本土」で基地を引き受けるべきだとの意見があります。でも簡単には応えられません。たとえ国民がそう考えても政府部内だけで決めてきたことをすぐに覆せるかどうか。
安全保障の問題はつまりは民主主義の問題。民主的手続きもなく、沖縄にあれだけの基地を置き、依存してきた。その歴史的な差別を反省し、ひとつひとつ議論を積み重ねて民主主義を復元するために行動することで、基地縮小は可能になると思うのです。
我がこととして向き合う
朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。
●「沖縄の基地負担は普通じゃない。もともと本土にあった米軍基地を沖縄に持ってきているものも多数だ。沖縄経済は基地で持っているとか、何もないところに基地を作ったとか、フェイクニュースが多すぎる。わじわじーする。もっと、ちゃんと自分のこととして考えて欲しい。例えば、あなたの愛する郷土が、反対多数なのに米軍基地を作られて、黙ってられますか? そんな無法が許されますか? 沖縄だから仕方ないと思っているのですか? それこそ差別じゃないですか?」(沖縄県・40代女性)
●「民意を無視する政府の支配する国は民主主義とは言えないと思う」(東京都・10代男性)
●「外国の軍隊がいるのがおかしいと思います」(東京都・10代女性)
●「1月に辺野古に行って現場を見てきました。小さい島における米軍基地の占める負担、プレッシャーを肌で感じました。前提として米軍基地が日本にあること自体の見直しを考えるべきではないかと思います。米軍に頼らない日本の防衛を検討し、いずれは米軍基地が日本にない状況が独立国として有るべき姿だと考えます」(大阪府・40代男性)
●「心情的には本土に移設すべしと思うが、防衛のための基地であることを考えると沖縄以外は考えられない。市街地に近く、墜落事故が発生した場合、市民に大勢の犠牲者が出るよりは、辺野古にあった方がまだ良い」(千葉県・50代その他)
●「国の『普天間基地の危険性を一刻も早く除去するために、唯一の解決策である辺野古埋め立てを進める』には、誠実さも真実味も全く感じられない。それほど普天間周辺住民の安全を気にかけているなら、本当に一刻でも早く運用停止できるよう、米国・米軍に対して働きかけをするべきだが、それを一切行わずに、普天間を人質に、辺野古供出を強要しているように見える。普天間の機能の何割かを移設するだけのためにあの大工事は、税金の使い方としても問題があるし、巨額の経費と歳月をかけて無理をして造っても、地盤沈下や冠水など不具合で使い物にならない、海兵隊が撤退して不要になるなど、不毛な結果に終わる恐れがある。現計画は中止するべき」(海外・50代女性)
●「近隣諸国の周辺海域での活動が活発化するなか、沖縄をはじめとする南西諸島を守るべき防衛力は必要であると感じる。様々な問題も指摘されている米軍基地ありきで話が進んでいることには疑問を感じるが、代わりの防衛力が用意できないのであれば仕方ないのではないかと感じる」(島根県・20代男性)
●「武力での平和に限界があるのは明らかだと思います。私自身は戦争を知らないので、戦争の本当の怖さを知ることはできません。それでも戦争経験者などが語る戦争は、私を心の底から不安にさせます。戦争と関わる人が一人でもいなくなってほしい。武器が必要のない地球になってほしいと思います。自分の生活に戦争を感じたくないし、やっぱり沖縄に米軍はいない方がいいです」(大阪府・20代男性)
●「辺野古基地は軟弱地盤等の問題があり、普天間基地の代替としての役割を果たせないと思う。このことは政府も認識しているが、米軍撤退を恐れて建設を止められないでいる。恐らく、政府が米軍を引き留め続ければ、辺野古と普天間の両方使うことになるだろう。負担軽減どころか、負担増加になるだろう」(沖縄県・60代男性)
●「いつも戦争に関することで沖縄の人々が苦しむのは申し訳ないが、現実問題、沖縄に米軍が駐在することは近隣諸国に対する防衛、牽制(けんせい)には不可欠」(兵庫県・40代女性)
●「もっと安全保障について学ぼうと思います。政府のやり方はひどいけど、そんな人たちを選んだのは私たち国民。沖縄のことを報道しないマスコミが悪いと言うけど、国民の関心が低いからこそ相対的に報道も少なくなる。人のせいにしてないで、一人一人が我がこととして、主体的に向き合わなければいけない。愚衆としてだまされないためにも」(東京都・40代女性)
●「どうしたら自分事になるのだろう。これだけの沖縄の声を無視することにやりきれなさがある。自分事に近いところでは震災後の福島の声を聞いているのかと思う。どうすれば国民の声が、国民に届くのか」(宮城県・40代女性)
●「大学2年生の夏(1972年)、日本一周ヒッチハイクで沖縄本島に初上陸しました。嘉手納の米軍基地の広さと海の色のきれいさが強く印象に残っています。日本は、アメリカ合衆国から『独立』する必要があると考えます」(石川県・60代男性)
●「これまでの流れから沖縄に置くのが自然で、労力が少なく進められる……と、考えているから一つの答えしか見いだせないのではないかと感じます。もし沖縄にそれらを引き続き背負わせるのであれば、国民一人一人が沖縄の歴史をきちんと理解した上で初めて議論すべき問題で、国民の代表である議員はより深く理解して進めてほしいです。残念ながらそのように進められているようには感じられません。私は神奈川で生まれ神奈川で育ちましたが、一つの場所に集中して、その人たちがつらい思いをしてるのは悲しい気持ちになります。公平に話し合われての結果ならまだしも不平等さを感じます。本土も沖縄も同じ日本です」(神奈川県・50代女性)
●「今まで、何度か本土でも沖縄の基地を受け入れる議論が出たけど、住民の反対で白紙撤回されています。それっておかしいと思いませんか? 本土の住民なら反対多数で基地受け入れを拒否出来るのに、沖縄県民が民意を示しても沖縄から雀(すずめ)の涙ほどしか基地を返還できない差別」(沖縄県・20代男性)
●「県民投票の結果を無視して、移設を遂行しようとする政府の姿勢が一番の問題。基地の所在については、一朝一夕に答えがでることではないし、沖縄県内でも市と県の民意にずれがあることを考えると、相当な意見が混合しているのだと思う。そこに、県外の人間がいかに介入できるかも重要。米軍基地が永続的に存在すること、そのほとんどは沖縄県に位置することが前提で進められてきた政治体制を見直す必要があるのではないだろうか。憲法改正をするのであれば、その先にこの問題の解決策はあるのかといった新しい議論の展開の必要があると思う」(神奈川県・20代女性)
◇
県民投票の結果から、ヤマト(本土)の私たちの前に置かれた「選択肢」を考えています。投票で示された沖縄の民意は、言うまでもなく全基地の撤収ではないし、日米安保体制の見直しでもない。辺野古に新基地をつくることなく、市街地の真ん中の普天間飛行場をなくすことです。
普天間は米海兵隊の基地。部隊から引き離すのが難しければ海兵隊そのものを「本土」に移転することがひとつの選択肢。専門家が指摘するように軍事的、地政学的には可能です。でも受け入れ地がどこにもないならば、国外への移転がもうひとつの選択肢。駐留規模が縮小される沖縄の海兵隊はそれだけでは日本の防衛力になりません。いずれもせずにこのまま埋め立て工事を続けるならば、沖縄の民意は無視することになります。
アンケートでは4割近くが「本土移設」の可能性を、5割が撤去を選びました。かつて海兵隊基地は抗議運動を避けるように「本土」から沖縄に移り、そのときは大半の日本人がさしたる疑問も抱きませんでした。しかし今、沖縄のうねりを受け、国民が主権者として在日米軍基地の意味と配置を問い直すことは不可避であると思います。(川端俊一)
◇
ご意見は
asahi_forum@asahi.com
か、ファクス03・3545・0201、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞社 編集局長室「フォーラム面」へ。