群馬県板倉町、埼玉県加須市、栃木県栃木市が交わる平地にある3県境が、日本で唯一3歩で回れるとして人気だ。農地が広がるのどかな風景と、住民の「手作り感」が受けている。一般的には山や川に線が引かれる県境が、なぜ田んぼの中にあるのか。その背景には、この地域を苦しませた過去の「国策」があった。
案内板や感想ノートを置いて独自にスポット化したのは、栃木市側の地権者の古澤満明さん(85)。「田んぼくらいしかない場所を楽しみに来てくれる人がいてうれしいんです」
古澤さんが東京の百貨店に勤めていた1990年代、県境マニアらが地図を片手に3県境を探しに来るようになり、土地の歴史に詳しい古澤さん宅を訪ねてくるようになった。不在でも3県境の場所がわかるように木製の手書きの案内板を立てた。
訪れる人が急増したのは2016年。境界を明確にするため3市町が合同で測量調査を実施し、境界点にコンクリート製の杭を2月に打ち込んだ。その動きがメディアで報じられ、SNSなどで拡散したからだ。
「来てくれた人の声を知りたくなりました」という古澤さんが、感想や意見を自由に書いてもらおうと16年5月、ノートを置いてみた。書かれた要望を参考に、道案内の看板、切り株のベンチ、スマートフォン用の撮影台を次々作った。
「何もないとこにポツンとある看板いいと思います」「写真台もナイス」などと反応が書かれると古澤さんはうれしい。ノートは今春までに12冊。計3600件以上の記入があり、書き込む人は宮崎県と島根県を除く「全国区」となっているという。「この3県境ができてから100年ぐらい何もないような場所だったのに、こんな人気になるなんて。世の中本当に不思議です」と古澤さんは笑う。
古澤さんや3市町などによると…