平成最後の日となる30日、京都府宇治市中心部で92年間続いた理容店が閉店する。長年働いてきたスタッフは体調がよくない。元号も変わる。「おかあさん、ぼつぼつ(そろそろ)ゆっくりしたら」との娘のひとことが、店主の東淑子(あずまとしこ)さん(84)の背中を押した。
県(あがた)神社の向かい、県通りに面した「理容アズマ」。1927(昭和2)年、京都市上京区で理容店をしていた先代が、この場所に移ってきた。1950年代から70年代にかけての高度成長期には、市内にあった日本レイヨン(現ユニチカ)の宿舎に数千人が暮らし、多くの社員が訪れた。「子どものころ、お客さんに整理券を配っていたのを覚えています」と東さん。
東さんは20歳から店を手伝い始めた。22歳で結婚した夫の冨美男(ふみお)さん(1995年に66歳で死去)とともに、店を支えてきた。いまは、約40年間働く、スタッフの松林勝之さん(77)と2人。九州から出てきた松林さんを気遣い、「働ける間は店を開けておいてやってほしい」というのが冨美男さんの最後の言葉だった。
その松林さんも年を取った。娘の言葉で2カ月ほど前に、閉店する決心をした。でも、客には話しづらくて、やっと伝えられるようになったのはここ1週間ほどのことだ。京都市や京田辺市など、市外から今も通ってくる客も多い。閉店を伝えると、涙ぐんで帰る人がほとんどという。
東さんは「山あり谷ありでしたが、いいお客さんに恵まれて楽しい人生でした」。令和の時代は「心新たに自分なりに出直して、一日一日を大切にしたいですね」と話した。(小山琢)