2015年9月、長崎県対馬沖で漁船5隻が転覆し5人が死亡する事故があった。東京大と気象庁が当時の気象状況をスーパーコンピューター「京」で再現したところ、巨大な渦の中で、竜巻に似た小さな渦が繰り返し発生していた可能性があることがわかった。
15年9月1日未明、対馬東方沖でイカ釣り漁船5隻が相次いで転覆した。救助された漁師が「竜巻のようだった」と証言したが、海上では痕跡が残らず、国の運輸安全委員会は「竜巻かどうか明らかにできなかった」との報告をまとめた。
その後、東大大気海洋研究所と気象庁気象研究所の研究チームが、当時の気象データをもとに京で再現シミュレーションを行った。
その結果、当時の海上に直径30キロ、高さ4キロほどの巨大な渦ができ、その内部で直径1キロ以下の竜巻状の渦が1時間に10個以上、繰り返し発生する様子がみられた。巨大な渦内部の風の変化によって引き起こされたものとみられ、積乱雲が原因で起きる一般的な竜巻とは異なるタイプという。
当時の風速は最大で50メートル以上だった可能性があり、チームは「漁船を転覆させた突風は竜巻状の渦が引き起こしたものと考えられる」と結論づけた。
11年8月に山口県西方沖で漁船が転覆し、死者が出たときの気象条件を同様にシミュレーションした結果、巨大な渦が発生する様子が確認された。巨大な渦は海面付近で回転が強いなどこれまで知られていない特徴が分かったが、なぜ発生するかは不明という。
チームの栃本英伍・東大特任研究員は「現在はシミュレーションの段階だが、発生する条件などの研究を進め、突風の予測や予報につなげられれば」と話している。(竹野内崇宏)