パナソニックが4月に設置した中国・北東アジア(CNA)社の本間哲朗社長が6日、北京で記者会見し、2021年度の売上高を18年度実績から4割増やし1兆円とすると述べた。膨大な建設需要がある中国で、不動産開発業者に家電をまとめて提案し、業績の大幅な上積みを狙う。 事業ごとに社内カンパニー制をとってきたパナソニックは4月、米国とともに中国に初の地域別カンパニーを設置した。現地に意思決定をゆだね、「世界のイノベーションの中心にある両国の成長を取り込む」(本間氏)との狙いがある。 CNA社が担当する中国や台湾、香港などは日本に次ぐ戦略市場と位置づけられている。とりわけインターネットにつながったIoT家電が普及するなど先進性を持つ中国を重視しており、現地の研究開発機能を高め、日本にも提案できる商品をつくる市場にしたい考え。 21年度の目標達成に向け、CNA社は家電と住宅の部門を統合し、不動産開発業者に家電を売り込みやすくする。 日本では住宅部門は買収した旧松下電工系で、家電部門とは別の社内カンパニーにあり、両部門の交流が少ない問題があった。そこでCNA社の下で両部門を統合。ハイテンポで進む中国ビジネスに合わせて、日本に判断を仰ぐことなく、方針を決められるようにする。 景気が低迷した昨年の中国の家電市場は2%成長だった。パナソニックの家電事業は18年度、高機能ドライヤーなどが人気で7%成長を達成したが、CNA社全体の売り上げは前年度比横ばいだった。市場低迷がエアコン部品の販売に響いた。 本間氏は19年度は「成長したい」と言うにとどめたが、開発業者向けの家電提案を強化することで、20、21年度は「2桁成長をしたい」と期待をかける。(北京=福田直之) 中国・北東アジア社・本間社長との主なやりとり パナソニックが4月に中国に設置した社内カンパニー、中国・北東アジア(CNA)社の本間哲朗社長(57)は入社後の1986年に中国語を学ぶため台湾に渡り、その後8年間、光ディスクの営業で中国各地を回るなどした「中国通」だ。長年中国と接点を持ってきた本間社長が6日に北京であった就任記者会見で語った内容からは、創業101年を迎えた老舗が積極的に「中国式」を取り入れることで自己変革を試みる姿が垣間見える。 ――パナソニックが4月に中国と米国に地域カンパニーをつくったのはなぜですか。 「この二つの国が世界のイノベーションの中心に位置づけられる傾向があり、一緒に成長したいからだ。素直に中国の民営企業に学ぶ心が大事だ。中国流のスピード、スタイル、コストという三つを私たちのものにし、日本で100年間育まれた製造業としての長期信頼性、技術力、幅広い商品群やグローバルに通用するブランド力という優位性と両立させたい。2030年に米国に肩を並べると言われる中国の経済規模に対応するための大きなシフトをしたい」 ――パナソニックの主力は家電ですが、中国の家電市場全体は18年から不振が続いています。 「中国の景気が悪いというステレオタイプが日本にはあるが、世界で一番高額な家電が売れる市場には違いない。日本で高級な家電商品を買う年齢層は50~60歳。だが、この国は25~35歳が非常に意欲的に高額家電を買う。中長期的に見た潜在性も疑う余地がない。一本200ドルのナノケアドライヤーはこの国で年間60万本も売れるので、売っている私たちが驚いてしまう。アジアのどの国と比べても桁違いにボリュームが大きい」 ――では、どのような家電に力を入れていきますか。 「(インターネットにつながる)IoT家電を連打したい。中国に来て痛感するのは、人々と生まれる技術の距離が極端に近い。家電製品とスマートフォンをつなぐサービスが当たり前のように使われている。我々が日本でいくら訴求しても手応えがつかめないIoT家電は『明日持ってきてください』と言われるのが現状だ」 「我々パナソニックの家電部門はIoT家電にだいぶ前から取り組んでいて、例えばテレビをネットにつなぐことは18~19年やっている。それでもお客様に対し、あまり上手に新しい価値を創造できていない。温水洗浄トイレにバイタル(生態)センサーを付けて健康情報をアップロードする実験は日本でもやっているが、製品化のめどが立たない。だが、中国では商品化した。まだまだ粗削りだが、中国のIoT家電を受け入れる力は日本に先んじた部分がある。中国で受け入れられるサービスや商品を作りながら、それを逆に日本に提案していくというのが私たちの役割ではないか」 ――かつて、中国市場における「松下電器」の存在感は大きかったですが、近年は地場メーカーにおされています。 「40年前に西側企業として最も早く中国に入った。私が33年前に中国語の研修に出たように、人材の育成にも取り組んできた。中国を『世界の工場』と認識するところまでは、極めてうまく対応した。だが、市場として認識するのはワンテンポ遅れてしまった」 「15年にアプライアンス(電化製品)社に移り、中国人社員から『我々は米国向けに安い電子レンジを作るのはつくづく飽きた。中国の豊かな国民のために付加価値のあるよいものを設計したい』と言われた。戦略が遅れていたと考え、以後方針を転換してきた」 ――中国流のコストとスタイル、スピードを学ぶそうですが、それぞれ具体的にどのようなものですか。 「まずコストについて。世界のルームエアコンの80%をつくる中国には非常に分厚いサプライチェーンがある。色々課題はあるが、ここに集積する部品を使いこなしていかないと、なかなか世界で通用するコスト力は出ないので、そのように取り組んでいく」 「スピードに関して、この国はメールよりチャット、スーツよりセーターと、かなり速いコミュニケーションを重視する素地がある。スピーディーなコミュニケーションがビジネスの基盤になっており、我々もスピードを上げなければいけない。中国の民営企業はここ6年で劇的に変化している。商品開発のスピードでも、ITを経営に活用するという観点でも、多くの日本企業が後れを取りつつあるという危機感を持っている。加えて日本の製造業が中国で勝負する上での非常に大きなハンデは、中国のマーケットの方向性が世界的に見てもやや特殊なため、日本の本部を説得するのに途方もない労力と時間がかかることだ」 「今回、我々はスピードを速めるために、私が中国に常駐して判断する。5人の事業部長のうち2人を日本人以外にし、その下の管理職も半分は中国人を抜擢(ばってき)している。経営サイクルをローカル化して、現地で話が進むようにするのが今回の非常に大きな突破口だ。こういうことができるのは30年かけて中国で製品開発ができる体制を先輩が作ってくれたから。小物家電はほとんど中国で設計開発できている。韓国メーカーもドイツメーカーでもできない」 「付け加えれば、日本の会社は非常に重たいしがらみを背負って経営しているが、それを中国の流儀に合わせてどこまで脱ぎ捨てられるか。それが我々にとっての最大のチャレンジだ」 ――では、残る中国流スタイルとは何でしょうか。 「失敗が許容されること。日本では計画外の新製品を出すことはほとんどできない。パナソニックの事業部長にとって、計画外の商品はそれ自体が失敗。残業代が必要だし、設計代も必要になる。ただ、中国人はお金がかかっても、向かっていけという判断をする」 「今から5年くらい前、ある外資系メーカーの金色のスマートフォンが中国で非常にはやった時、ぜひ冷蔵庫の色も金色にしたいという意見が現地から来た。たまたま私が冷蔵庫事業部長だったからすぐOKしたが、日本の事業部長は通常、理解できない」 「中国ではこの1年、市況を見て計画外の製品を投入してきた。白物家電、冷蔵庫、洗濯機は顕著に柔軟になった。今までは日本の事業部長が了承しないと製品が出なかったのが、浙江省杭州市にいる家電のトップがOKすれば新製品が出るようにした」 「計画外の新製品を出そうとすると、事業部長に『何をやっているのだ』と言われた。ただ、CNA社で自己完結することでこうした問題はだいぶ防げる。今は私が受け取るし、私の上司は津賀(一宏社長)だけなので、ちゃちゃや妙なバイアスが入ることはない」 ――創業者松下幸之助氏の経営思想をどう生かしていきますか。 「中国は日々新たに、色んなアイデアやビジネスが生まれる。私たちの経営理念をどう実践するか考えさせられるが、創業者は『日々創新』と唱えていた。日々新たな挑戦をしろということだ。私たち中国に展開するパナソニックグループも経営理念をもう一度思い起こして、中国のイノベーションと共に成長していきたい」 ――米中通商紛争がCNA社に与える影響は。 「CNA社は対米輸出がほとんど無い。我々は家電と住宅の分野は米国でビジネスをしていない。米中が仮に抜き差しならないことになっても、米国で失うビジネスはこの分野についてはほぼない」 ※5月6日に北京であった記者会見の内容を話題ごとに再構成しました。 |
3年で売上4割増の1兆円めざす 新設のパナ中国社
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