太陽と似た核融合反応を起こし、エネルギー源として利用する核融合炉。「地上の太陽」とも呼ばれる壮大な研究開発が国際プロジェクトで進む。ようやく実験炉の完成が見えつつあるが、「夢のエネルギー」の実現はまだ見通せていない。 (社説余滴)「地上の太陽」の平和利用 村山知博 青森)陽子ビーム加速に成功、核融合実験炉実現へ一歩 「夢のエネルギー」への期待 フランス南部の港町マルセイユから車で約1時間。のどかな山村に競技場のような建物が姿を現した。3月下旬、国際熱核融合実験炉「ITER(イーター)」を訪ねると、英語やフランス語が飛び交う中、作業員らが設備の組み立て準備に追われていた。 ITERは、太陽の中で起きている核融合反応を人工的に起こしてエネルギーを取り出す核融合発電の実験炉だ。日本や欧州連合(EU)、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7カ国・地域が参加する国際プロジェクトで、2007年から建設が続く。25年に設備を完成させ、35年の本格運転を目指す。 担当者によると、設備は6割ほど完成した。実験炉は直径約30メートルで、ドーナツ状の巨大なコイルを設置し、強力な磁場を発生させる。重さは東京タワー約6個分にあたる2万3千トンだ。 ITERは、旧ソ連が考案したトカマク型と呼ばれる炉で、コイルが作る磁場の作用で内部の空間に燃料を閉じ込める。高温に熱した燃料は、原子核と電子が分離したプラズマと呼ばれる特殊な状態になっている。発電につなげるには、この状態を長時間保つ必要がある。実験炉のITERは発電はしないが、高出力で最大8分ほど持続させることを目指している。 ITER機構の多田栄介副機構長は「核融合が技術的に成立することがわかれば、いよいよ実用化に近づく」と期待する。 燃料には、ほかの物質と比べて核融合反応を起こしやすい水素の同位体の重水素と三重水素(トリチウム)を用いる。いずれも長期にわたって調達できる利点がある。 ふつうの原発では、いったん反応が始まると連鎖的に続くウランの核分裂反応を利用して膨大なエネルギーを取り出す。一方、核融合反応は、燃料を入れ続けなければ反応が止まるなど核分裂とは原理が異なり、安全性にも優れるとされる。核融合で生じる中性子が炉の壁にぶつかって反応し、炉内に放射性廃棄物がたまる問題はあるが、二酸化炭素を排出せず、環境問題とエネルギー問題を解決する「夢のエネルギー」として期待されてきた。 実用化に課題 ITERの建設費は200億ユーロ(約2・4兆円)規模とされる。7カ国・地域のうちEUが45・5%、ほかの6カ国が9・1%ずつ負担している。日本の支出は今年度末で計約1800億円に達する見通しだ。計画が始まった当初に見込んだ約700億円をすでに大きく上回り、完成予定の25年には計約2900億円を負担することになる。費用が予定通り集まるかどうかが計画の成否を左右する。 建設は遅れ気味だ。当初の計画では18年の完成を見込んでいたが、7年先延ばしされた。建設に使う機器や部品は各国が持ち寄る方式のため、多国間の調整に時間がかかったという。 15年からITER機構長を務める元仏原子力庁長官のベルナール・ビゴ氏は「現在は各国が共通のスケジュールのもとで調達を進めており、計画通り毎月0・7%の速度で作業が進んでいる」と述べ、25年の完成に自信を見せる。 ITERが完成すると、核融合炉は実用化に向けた新たな局面に入る。次の段階の原型炉は、各国が独自に作るのか、多国の協力で作るのかまだ決まっていない。日本政府の工程表では、35年ごろに原型炉を作るかどうかを判断した上で、建設する場合は今世紀半ばごろに実用化のめどをつけるとしている。 ただ、実用化には技術的な課題が山積している。ITERでは、稼働させるために投入したエネルギーの10倍を取り出すことをめざすが、そもそも膨大なエネルギーに耐える炉の金属材料などが欠かせず、技術革新が必要になる。 国内では1950年代から研究開発 日本は、核融合を将来の有望なエネルギー源として位置付け、1950年代から研究開発を続けてきた。量子科学技術研究開発機構の栗原研一・那珂核融合研究所長は「資源の乏しい日本では核融合への期待が大きく、研究でも世界をリードしてきた」と語る。 茨城県那珂市の同研究所では、日欧で共同開発する核融合の実験装置「JT―60SA」が来年3月に組み立てを終え、半年後に本格的な稼働を始める。発生させたプラズマを100秒ほど持続させ、成果をITERに反映する。 この装置の前身で、10年ほど前まで稼働した臨界プラズマ試験装置「JT―60」は、世界的な成果も挙げた。米国や欧州でも同様の装置を開発して国際競争が激しくなる中で、06年にITERの基準をほぼ満たしたプラズマを28秒間維持する世界記録を達成。計画にはずみをつけた。 さらに性能を高めた後継装置の稼働で、ITERの次の原型炉開発の基礎を固めるほか、研究者の育成も進めるという。 栗原さんは「かつてアジアでは日本が独走していたが、近年は中国や韓国が猛追している」と指摘する。国際プロジェクトを主導する人材育成が急務だという。(小川裕介) 別方式の研究も 核融合には、旧ソ連で考案されたトカマク型とは別の方式もある。日本でも研究が続いている。大阪大は、球状の燃料に強力なレーザー光をあてるレーザー核融合の研究を続けている。トカマクとは異なる形状の磁気でプラズマを閉じ込めるヘリカル型と呼ばれる方法もある。 ITERとは 米国と旧ソ連による冷戦末期の1985年、両国の首脳が核融合炉の共同開発に合意し、日欧にも呼びかけて始まった。日本は青森県六ケ所村への建設誘致をめざしたが誘致合戦に敗れ、現在の仏南部が選定された。常駐する日本人職員は約3%にとどまり、分担している予算規模に比べて少ない。 |
「地上の太陽」なお夢の途中 核融合実験炉、南仏で建設
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