日本の大学は「生産性」が低く、論文1本にかかる費用はドイツの1・8倍――。国立大学の研究成果に応じて交付金の額に差をつけた政府の2019年度予算には、「選択と集中」を掲げて改革を迫る財務省のこうした分析が反映されている。国立大側は「極端な比較だ」と反論したが、国会での議論は深まらないまま、予算は成立した。
財務省は、ほかの論文に引用された回数が上位1割に入り、その分野で特に影響力がある「トップ10%論文」を分析。昨年10月、予算案を審議する財政制度等審議会の分科会で結果を公表した。
それによると、大学などの「高等教育部門」の研究開発費は、日本は総額208億ドル(約2・3兆円)。トップ10%論文数は約3千本で、1本当たりの費用は660万ドル(約7・3億円)だった。一方、ドイツは、ほぼ同額の投資で約6千本のトップ10%論文が出ていたという。
全国86の国立大には、国から毎年約1兆円の運営交付金が支給されている。16年度からは、改革の進み具合に応じて交付金額に差をつける制度が導入された。その枠は18年度の約285億円から、19年度予算では約1千億円に膨らんだ。
これに対し、国立大学協会は昨年11月、「国立大の生産性はそれほど低くない」と反論する声明を出した。
大学を国立とそれ以外に分類し、教員が研究にあてている時間の違いなどを考慮した上で研究開発費を推計したところ、国立大は96億ドルで、全大学の46%を占めた。一方、国立大が生むトップ10%論文は2277本で、全大学の76%だった。国立大に限れば1本当たりの費用は420万ドルで、ドイツの「約1・1倍」にとどまるという。
国立大学協会は、財務省の分析について、「州立大が大半を占めるドイツと、私立大が多い日本を比べている」「極端な差を強調することには疑義を感じる」などと批判。交付金の傾斜配分拡大は、大学の経営基盤を不安定にし、教育や研究を「衰弱化、崩壊」させると訴えた。
ただ、日本のトップ10%論文の費用が欧米より高い傾向に変わりはない。財務省によると、米国は1本あたり210万ドル、英国は150万ドル。協会の試算でも、日本は米国の2倍、英国の3倍だ。協会は「論文生産性に問題がないとする意図はなく、強い危機感をもって研究力向上に取り組む」としている。(小宮山亮磨)