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昨年、30周年を迎えた劇団「大人計画」を主宰し、小説や映像の世界でも活躍する松尾スズキさんが、個人プロデュースによる舞台の企画を立ち上げました。その名も「東京成人演劇部」。人気集団を率いて、大規模な公演を続けるプレッシャーから解放されたいとの思いが、「部活」という原点回帰に向かわせたと言います。 「大学の時に演劇研究会に入り、お芝居をやっていた時は、すごく楽しかった。あのドキドキやワクワクを、もう一回という気持ちですよね」と松尾さん。 大学卒業後、会社員生活を経て、一時はギャグ漫画家を目指した。出版社に持ち込んだ原稿をことごとく断られ、「背水の陣」で臨んだ演劇の道。1988年、雑誌で劇団員を募集し、新宿の小劇場で旗揚げした。その後メンバーは入れ替わり、宮藤官九郎さんや阿部サダヲさんらが参加。今や1作品の公演で、1万~2万人の観客を集める人気劇団となった。 「昔は、百人が見て、3人ぐらい面白がってくれればいいやというような、結構やさぐれた気持ちでした。今は、お客さん百人中百人に伝われ――とやっている。百人に伝わったら千人にもと、どんどん劇場が大きくなっていく。『マス』と言えるお客さんを相手にする中で、興行の責任を取るプレッシャーが、澱(おり)のように自分をむしばんでいるという思いに、とらわれることがあるんです。そこから解放されたところで、一回、小さな芝居を立ち上げたかった」 第1弾として企画したのが、「言葉で捉えがたい、不思議な魅力がある」と評する、安藤玉恵さんとの2人芝居「命、ギガ長ス」。舞台美術や道具を排し、体一本で勝負したいと、各地の公演会場は、いずれも小規模な空間を選んだ。 松尾さんと安藤さんが演じるのは、認知症の母親とアルコール依存症の息子、その生活をドキュメンタリー映像に収めようとしている女子学生と指導教授、の4人。今、母親の介護に向き合っていることが、この題材を選ぶ一つのきっかけになったという。 「具体的に言うと重たくなっちゃうから、あまり言いたくないんですけれど」と前置きしつつ、「こちらがいくら思いを伝えようとしても、反応が返ってこない。闇に自分を放り込んでいるような瞬間があって。潜っても足がつかないみたいな――。生まれてきた、言いようのない感情を、作家としては一度、表現しておきたいなと思ったわけです」。 ただ「そういう中でも、ユーモアは大事だと思っている」。親や教師に叱られてばかりいた子ども時代、学校のルールや親のしつけに過剰な圧迫感を覚え、苦しんでいた心に唯一、風穴を開けてくれたのが「笑い」だった。 「不謹慎、不道徳なことを『だからこそ笑いたい』みたいな思いがあるんですね」。障害や性といったタブー視されがちな話題も、毒気のある笑いと共に描いてきた。「言ってみれば『差別的笑い』というか。モンティ・パイソンの影響が大きいんですけれど――。もうやり尽くしたんでいいかな、と。もちろん、ブラックな笑いはあるでしょう。でも、誰か個人や、悲しみを抱いている人が傷つく笑いは、今はやりたくないなと。不謹慎だけれど、人を傷つけない。そのすれすれのラインを狙って、やっていきたいなと思います」と話す。 昨年、小説『もう「はい」としか言えない』で芥川賞に3度目のノミネート。今年は監督・主演・脚本を務める映画も公開を予定するなど、活躍の場は広がる。「演劇ばかりやっていると、苦しすぎる。飽きるから。毎日、稽古場に行くって、しんどいんですよね。ここに映画が、ドラマが入ってきた――というほうが、目先が変わって、新鮮な気持ちになれる」 とは言え、軸足を置くのは、やはり演劇だ。「こういうミニマムな、突き詰めた芝居もやりつつ、エンターテインメントを極めていきたいですね。『ああ、演劇を見たな』という、見応えがあるもの。もともと、自分の中には分かりにくい部分があって。きっちりエンタメに乗せたほうが、さわりやすい部分があると思うんです」と言う。 実は、人前に出ることに、恐怖心があるのだという。「その矛盾と、ずっと闘っている状態なんですよ。自分という表現者は、その葛藤がないとダメだと思っています。人前に出ることが楽だと思った時に、僕の良さが消えるような気がして――。だから、大きな劇場ばかり出ていると、苦しくなってくるんですよね」 「命、ギガ長ス」( http://matsuo-suzuki.com/
)の公演日程は次の通り。7月4~21日、東京・下北沢のザ・スズナリ▼7月24、25日、富山市のオーバード・ホール▼7月27~29日、大阪市の読売テレビ新社屋10hall▼7月31日、8月1日、北九州市の北九州芸術劇場▼8月4日、宮城県大河原町のえずこホール(仙南芸術文化センター)▼8月6、7日、札幌市の生活支援型文化施設コンカリーニョ(増田愛子) |
やさぐれていたあの時代 松尾スズキの原点は「部活」
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