東京五輪で初のメダル獲得をめざすボート。試合会場では、少し変わった光景が見られる。レースに出場しない監督やコーチたちが、前かご付きの「ママチャリ」に乗って、コースの横を一生懸命に走っているからだ。ボート関係者にとっては「当たり前の光景」だというが、なぜなのか。
26日に「ボートの聖地」とも言われる埼玉県戸田市の戸田漕艇(そうてい)場(戸田ボートコース)で行われた全日本選手権の最終日。レースが始まると、全長2千メートルのコースを進むボートと並走するように、約20台のママチャリも走り始めた。「がんばれー!」「ペースあげろー!」。ママチャリからは何度も声援が飛んだ。
自転車に乗るのは、選手を指示したり応援したりするため。人間の足では追いつけず、エイト(8人)では時速20キロを超える速さになる。日本ボート協会の関係者によると、試合会場まで持ち込みやすい折りたたみ自転車や、スピードが出るマウンテンバイクに乗る人もいる。
国内ではママチャリが多く見られ、理由については「比較的安いし、かごもあって何か入れるのに便利だからでは」(同協会関係者)。大学や実業団などが置く戸田漕艇場の艇庫前は、自転車がずらりと並ぶ。下半身のトレーニング、練習の撮影、広い試合会場での移動など、いろいろな場面に使われており、ボート界では欠かせない道具だという。
自転車はコース横の伴走路を走る。五輪や世界選手権など国際大会規格公認の「A級」に指定されたコースに整備されていて、海外でも監督らが自転車に乗って指示する光景は一般的だという。ただ、試合会場が幅の大きい川や湖などの場合は伴走路がないほか、個人の車やバイクは危険なため禁止。事故防止のために、1チームが使える自転車の数も限られている。
全日本選手権の女子シングルスカルで優勝した大石綾美選手(アイリスオーヤマ)は「応援はめちゃくちゃ力になる。監督のアドバイスで冷静にもなれた」と振り返った。東京五輪の会場となる「海の森水上競技場」にも伴走路ができる予定で、また違ったボートの見方ができるかもしれない。(室田賢)