欧州連合(EU)の顔、欧州委員長選びに暗雲が漂っている。23~26日にあった欧州議会選では、これまで首脳人事の主導権を握ってきた主流会派が衰退。最大会派が推す候補に親EU派内からも異論が相次ぎ、人選は難しくなりそうだ。
欧州議会の最大会派の地位を維持した「欧州人民党(EPP)」に所属するドイツ人のウェーバー氏(46)は27日未明、選挙結果を受けてこう話した。「我々の会派に勝る多数勢力はない」。言葉には、自分こそ、EUの行政トップである次の欧州委員長にふさわしいとの思いがこもる。
欧州委員長は巨大なEUの官僚組織を束ね、各国の首脳との通商交渉などを担う、EUの顔の1人。現在のユンケル欧州委員長(64)の5年の任期が今年10月末で切れるため、後任選びが必要となる。
欧州議会選で、各会派は次期欧州委員長の「筆頭候補」を立てて戦った。今後は、EU首脳会議が選挙結果を考慮して選んだ候補者を、欧州議会が多数決で承認するという流れになる。本来なら、最大会派の座を維持したEPPの筆頭候補であるウェーバー氏が最有力候補だが、ことはそう簡単に進みそうにない。
「3人目」も意欲
ウェーバー氏の委員長就任に異を唱える一人が、フランスのマクロン大統領だ。
トランプ米政権や中国に対抗できる強いEUを目指すマクロン氏は、知名度も低く閣僚経験もないウェーバー氏では、不十分だと懸念している。ウェーバー氏は出身のドイツでも、3割程度の人にしか知られていないという調査もある。
マクロン氏率いる与党「共和国前進」が属する欧州議会の会派「欧州自由民主同盟」(ALDE)は今回、議席を6割弱増やしている。EPPなど、親EU派の中道2大会派の合計議席が過半数を下回っており、ALDEは親EU派の第3勢力として存在感を増した。このため、マクロン氏が、英国のEU離脱交渉を担い、経験も知名度もあるEPP所属のフランス人のバルニエ首席交渉官(68)を推すとの見方も出ている。
一方、第2会派の「社会民主進歩同盟」(S&D)が候補に立てた、オランダ人のティマーマンス欧州委第1副委員長(58)も「進歩的な政党と働きたい」とALDEを含めた他党との連携に言及し、欧州委員長への意欲を見せている。
こうした状況を見越してか、EU首脳会議のトゥスク常任議長は議会選前に「首脳間で合意形成が難しい状況でも、候補を6月には決めたい」と発言。調整が難航しても、早期に決定する意向を示している。(ベルリン=野島淳、パリ=疋田多揚、ブリュッセル=津阪直樹)
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