東京都小金井市で2016年5月、音楽活動をしていた20歳の女性がファンの男に刺され重傷を負った事件で、女性と母親が警視庁を所管する東京都や加害者の男、所属していた芸能事務所に計7600万円の損害賠償を求め、10日にも提訴することが分かった。
冨田真由さん、全身に残る刺し傷 視界半分、動悸いまも
女性側は「警視庁はライブ会場周辺に警察官を派遣するといった必要な警備を怠った」「事務所は女性の安全に配慮しなかった」などと主張するとみられる。
女性は冨田真由さん。代理人弁護士によると、加害者の岩崎友宏受刑者(30)=懲役14年6カ月=がツイッターやブログに「殺したい」といった脅迫的な書き込みを繰り返したため、冨田さんは16年5月上旬、警視庁武蔵野署に相談。事件2日前の同月19日には、ライブの出演予定も伝えていた。
相談の際には書き込み内容を署員に示し、「殺されるかもしれない」と命の危険を感じていると訴えたという。明らかに切迫している状況だったのに、警察官がライブ当日の会場周辺を見回るなどの警察権の行使をしなかったのは違法だと主張するという。
警視庁は事件前の対応についての検証報告で、署側は岩崎受刑者がすぐに冨田さんに危害を加える可能性はないと判断したと説明。対応の不備を認めた。
冨田さんは今もPTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療中という。母親は朝日新聞の取材に「どうして娘の相談が軽く扱われてしまったのか。娘が後遺症に苦しんでいる状態をどう思っているのか、裁判を通じて知りたい」と話した。(関口佳代子、小松隆次郎)
警視庁の岩田康弘・生活安全総務課長の話
警察で事前に相談を受けながら被害を防止できなかったことを重く受け止め、同種事案の再発防止に向け、組織一丸となって取り組んでおります。
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〈小金井女性刺傷事件〉 2016年5月21日午後5時すぎ、音楽活動をしていた当時大学生の冨田真由さんが、東京都小金井市本町6丁目のライブ会場付近で、ファンの岩崎友宏受刑者にナイフで何度も刺され、一時意識不明の重体となった。岩崎受刑者は殺人未遂と銃刀法違反の罪で懲役14年6カ月が確定した。
冨田さんは事件前、岩崎受刑者からツイッターなどで脅迫されていると警視庁に相談していた。しかし同庁はすぐに危険が及ぶとは判断せず、ライブ会場周辺の見回りなどをしていなかった。