【ミュンヘン(ドイツ)辻中祐子】サッカーのワールドカップ(W杯)ドイツ大会は5日(日本時間6日)、準決勝の残る1試合が行われ、フランスが1-0でポルトガルを降し、地元開催で初優勝した98年大会以来2大会ぶり2回目の決勝進出を果たした。フランスは9日(同10日)にベルリンで行われる決勝でイタリアと対戦する。
ともにベストメンバーに近い布陣。フランスは前半33分、ゴール前でアンリが倒されて得たPKをジダンが落ち着いて決め先制。個人技を生かしたポルトガルの猛攻を粘り強い守備でしのいで逃げ切った。
ポルトガルは同国史上初の決勝進出を逃し、ブラジル代表を率いた02年日韓大会から続けていたスコラリ監督のW杯連勝は「12」で止まった。ポルトガルは8日(同9日)にシュツットガルトである3位決定戦で開催国ドイツと対戦する。
○フランス1ー0ポルトガル●
フランスが前半にPKで挙げた1点を守り切った。序盤、ポルトガルはロナルドの縦突破やサイドバックのミゲルの攻撃参加からチャンスを作ったが、フランスは最終ラインとボランチがバランスを保った組織的な守備で得点を許さなかった。フランスは前半33分、アンリがカルバリョに倒されて得たPKをジダンがゴール左隅に冷静に決めて先制。後半に入ってもポルトガルは、攻撃の起点となるはずのデコが下がった位置でのプレーを強いられ、得点につながる配球ができなかった。後半33分にはロナルドのFKをGKがはじいたこぼれ球をフィーゴが詰めきれず、絶好の同点機を逸したのも響いた。
▽フランス・ドメネク監督 難しい試合だったが、決勝に進出できたことを誇りに思う。この舞台を目標にしてきた。我々は控えを含めてチームとして同じ目標に向かって戦っている。
◇先制してから鉄壁の守りで逃げ切る…フランス
フランスの守りは鉄壁だ。準々決勝はブラジル、この日はポルトガルと個人技にたけた2カ国を連続して無得点に封じた。ドメネク監督は「チームとして戦った結果だ」と話した。
4バックの布陣で、中央のセンターバック(CB)は181センチのガラスと185センチのチュラム。その前の守備的MFに運動量豊富なマケレレと、193センチと大型のビエラがいる。この4人の強固なブロックが中央突破を阻む。相手がサイドからクロスで活路を見出そうとすれば、両CBがはじいて守備的MFがこぼれ球を拾ってしまう。
FWからのプレスも献身的だ。「選手は犠牲をいとわない」とドメネク監督が話したように、お手本のように組織化されている。
戦い方も徹底していた。前半33分にジダンのPKによるゴールで先制してからは、あえて攻めなかった。ボールを奪っても敵陣に攻めるのはアンリ、ジダンらせいぜい4人まで。常とう的な戦い方なら得点するために攻め手の枚数を増やす。サイドや守備的MFまで参加すれば、敵陣で攻めにかかわるのは6~8人にまで増えるのが普通だ。
しかし、この日のフランスは逆。両サイドを含めた6~8人が守りに専念した。これなら、ほころびようがない。白いユニホームをまとったフランスの選手たちが、どうにも付け入るスキのない白い壁となって立ちふさがっていた。
98年W杯フランス大会、00年欧州選手権の優勝時は、細かいパスをつないで攻めでも魅せるチームだった。この日のシュートは5本に終わり、見た目の華やかさはなくなった。初戦の無得点引き分けに始まり、1次リーグ2位通過という重い足取りだったにもかかわらず、準決勝まで6試合を戦って2失点のみ。大会を通じて勝ちパターンを確立してきたのは強みだ。ドメネク監督は「決勝で勝ちたい」と話した。【小坂大】
◇リリアン・チュラム=フランスDF(34歳)…引退から復帰、堅守支える
ジダンとともに母国復活に導いた。98年フランス大会、02年日韓大会でDFの中心として活躍したが、04年欧州選手権後に代表からの引退を表明した。「情熱を失っていた」という。その間、代表チームは不振にあえいだ。今大会の欧州予選4組で勝ち点が伸びなかった昨年、窮状を訴えるドメネク監督の説得と、ジダンからも声をかけられて復帰を決意した。
185センチの長身と身体能力を生かして、相手の攻撃をはね返す。全身バネのようだった、かつてと比べればキレは影をひそめているが、その分、経験に基づく危機察知力が高くなった。
この日、ポルトガルのロナルドが徹底的に繰り返し送り込んできた左サイドからのクロスを、ことごとくはね返す。今回も間違いなくフランスの堅守を支える一人だ。
カリブ海に浮かぶフランス領のグアドループ島出身。9歳でパリに渡り、20歳でフランスリーグのモナコでデビューし、代表には94年から招集された。この日で出場した国際Aマッチは120試合になる。フランス大会に続く自身2度目のW杯決勝を「子どものころから夢だった。とても魅力的だ」と喜びを隠さなかった。【小坂大】
◇捨て身の反撃実らず…ポルトガル
4分と表示された後半ロスタイムも、すでに2分が過ぎていた。ポルトガルはCKを得ると、GKリカルドがスコラリ監督の制止を振り切ってフランスのゴール前に上がっていった。だが、全員で仕掛けた捨て身の反撃も実らなかった。最後のロナルドの突破も、オフサイドを取られて万事休す。初の決勝進出を目指したポルトガルの挑戦が終わった。
均衡は、あっけない形で崩れた。
前半33分、カルバリョがペナルティーエリア内でアンリの右足を引っ掛け、PKを与えた。けるのはジダン。準々決勝イングランド戦のPK戦で4本中3本を止めたリカルドでも、防げなかった。ボールは右手先をかすめていた。読みは当たっていただけに、リカルドは髪をかきむしって悔しがった。
スコラリ監督は試合後、判定に不満を隠さなかった。「フランスのPKは妥当な判定だった。だが、主審はロナウドへのファウルを見逃した」。PKで1点を失った直後の前半37分、ロナルドがペナルティーエリア内で相手選手ともつれて倒れたが、笛は鳴らなかった。ビデオ再生を見る限り、ロナルドは自分から倒れたようにも見えたが、熱くなった指揮官は「主審が試合を壊した」とまくしたてた。
スコラリ監督は4年前の日韓大会で母国ブラジルを率いて優勝した。今大会は、史上初となる監督としての2大会連続制覇がかかっていたが、それは夢と消えた。W杯無敗記録も12試合で止まった。何よりも、息子のように接していた選手たちを、決勝に連れていくことができなかった無念さが、言葉の端々ににじんでいた。
「夢が終わって寂しいが、明日からは気持ちを切り替える。3位になるという新しい夢に向かう」。最後は自分に言い聞かせるかのように語った。【安間徹】
◇ロナルド(ポルトガルFW・21歳)…若きストライカー「夢が終わった」
速いドリブルでゴール前へと突進した。絶妙なヒールパスで相手の裏をかいた。この日のロナルドの動きは、さえわたっていた。しかし、どうしても肝心のゴールが決まらない。
後半33分、自らがタックルを受けて得たゴール正面でのFK。フランスGKバルテズには予想外の切れ味鋭い変化だったらしく、大きく前にはじいた。ボールはフィーゴの目の前に飛んだが、頼みのベテランもそれを決めきれなかった。終了間際にも怒とうの攻めでシュートを放つが、GKにはじかれた。がむしゃらに戦った若きストライカーは、最後は疲れ切った表情となっていた。
「夢が終わった。試合の主導権は握っていたのに、決勝に進出するという目標を果たせなかった」。さすがに、声は小さかった。
スタンドからは、ボールを持つだけで大きなブーイングを浴びた。準々決勝のイングランド戦、同じ英・プレミアリーグのマンチェスターユナイテッドでプレーする同僚のルーニーを退場させるよう審判にアピールしたと英国メディアなどで報道された。大衆紙は「国外追放-こいつを二度とイングランドに入れるな」と過激な見出しを連ねた。
しかし、そんな非難も気にせず、33歳のベテラン・フィーゴや27歳の中堅・デコらとピッチを走り回った。「チームは団結していたが、ただ、チャンスを生かしきれなかった」。“兄”たちに守られ、時に助けながら見せたスピードあふれるプレーは、敗れはしたが強い印象を残した。【辻中祐子】
○…ポルトガルのエース・パウレタにとっては苦しい大会だった。この日も1トップとして先発したが、好機らしい好機も作れず。前半10分には右サイドを巧みなドリブルで突破したフィーゴからのクロスに、タイミングよくゴール前へ入ることができなかった。その後も周囲との動きが合わず、後半23分にベンチへ。「もちろん今は意気消沈している。勝つためにすべてのことをしたのだが……」と話した。
○…出場停止が明け、2試合ぶりで先発したポルトガルのMFデコ。攻撃の起点になった場面は再三あったが、ゴールにつなげることはできなかった。1次リーグ最初の試合をけがのために欠場するなど、チームとしてはこの日が大会6試合目だが、デコ自身は3試合目。「今はとにかく悲しい。先制された後、相手は守りを固めてきて厳しくなった」。ボールは保持しながらも、攻めあぐねてしまったことを悔やんでいた。
毎日新聞 2006年7月6日 8時31分 (最終更新時間 7月6日 10時24分)