東京大学大学院 工学系研究科は2004年12月10日,有機TFT(薄膜トランジスタ)と有機フォトダイオードを使ったシート型画像スキャナを発表した。基材に薄いプラスチックを使い,曲げることができるため,曲面に印刷されている画像も読み取れる。また,これまでのスキャナにあった機械的な可動部分がないため,封止膜も含めて1mm以下と薄く軽量という特徴がある。
同スキャナを開発したのは,同大学工学系研究科 量子相エレクトロニクス研究センター 助教授の染谷隆夫氏と,同大学 国際・産学共同研究センター 教授の桜井貴康氏らの研究チーム。シート型スキャナは,有機フォトダイオードからなる微小な光センサと有機TFTを,それぞれ格子状になるようにプラスチック・フィルム上に形成し,それらを張り合わせて作製した。解像度は36dpi,寸法は5cm角~8cm角である。
シートは「金属の電極以外はほとんど透明」(染谷氏)で光を透過する。白黒のパターンを印刷した紙やラベルにこのシートを当てると,シートを透過した光が印刷面に反射して光センサに入射する。この光を電気信号に変換することで同パターンを読み取る仕組みである。36dpiのものとは別に,250dpiだが有機TFTのない光センサだけのシートも開発済み。この250dpiのシートに多数の配線を施したものを使って,大きさが1mm角のアルファベットの「T」という文字を読み取ることに成功したという。光センサの感度は「蛍光灯から数cm離した距離の明るさなら利用できる程度」(染谷氏)。関連技術の特許については「回路の構造,製造方法,アプリケーションなどで数件の特許を出願している」(桜井氏)という。
有機TFTの半導体には,p型半導体でキャリア移動度が比較的高いペンタセンを採用した。一方,有機フォトダイオードは「青系の顔料をベースにしたp型とn型の有機半導体」(染谷氏)を使い,既存のフォトダイオードと同じpn接合で実現した。これら3種類の有機材料はいずれも低分子系で,プラスチック・フィルム上に真空蒸着で薄膜形成させた。プラスチックには「PET(ポリエチレンテレフタレート)に近い,耐熱性のある樹脂」(染谷氏)を利用したという。
今回,染谷氏と桜井氏の研究チームが半導体に有機材料を使った理由は,有機材料に(1)曲げられる,(2)印刷技術で製造可能,(3)大面積でも低コスト――などの優位性があるため。染谷氏は「有機TFTのシートは曲率半径5mmまで曲げても動作することを確認済み」とする。コストの点では「Siウエハーでは10cmで10万円程度するが,今回のシートのコストは,10cm角で1000円以下になる」(桜井氏)。ただし,現状では動作寿命が短いという大きな課題がある。「今回開発したものは大気中では1週間ぐらいで性能が劣化する。有機EL用に開発された封止技術を使えば,数カ月はもつはず」(染谷氏)という。
染谷氏と桜井氏の両氏は2004年2月の回路技術の国際学会「ISSCC 2004」で,プラスチック・フィルム上に圧力センサと有機TFTを格子状に張り付けた「人工皮膚」を発表している。今回の成果はそれに続く第2弾で,2004年12月13日~15日に米サンフランシスコ市で開催するデバイス関連の国際学会「2004 IEEE International Electron Devices Meeting(IEDM 2004)」と,2005年2月にやはりサンフランシスコ市で開催する「ISSCC 2005」で発表する予定である。 |