永久歯が生えない子どもが増えていると聞いた。乳歯が抜ければ当然生えてくるものと思っていたので、かなり驚いた。本当なのだろうか。そもそも、どういうメカニズムで歯は生え変わるのだろう。【石塚淳子】
◆かみ合わせや発音にも問題
永久歯が生えない子どもについて調査したのは、名古屋市で歯科医院を開業する中里博泰さん。89年から16年間、5~16歳の初診患者でレントゲンを撮った人について、永久歯の有無を調べてきた。
◇1~2本欠損
永久歯が欠落している人の割合は、97年まで平均4・9%だった。ところが、98年から急激に増え、04年までの平均は11・6%に達した。平均すると1~2本程度の欠損だが、中には親知らずを除いて6本足りない子どももいたという。
永久歯がなければ、乳歯をなるべく長く使う工夫をしなければならないが、乳歯は永久歯より小さくて弱いため一生使い続けるのは無理という。
永久歯がないのに乳歯が抜けてしまうと、歯の間から空気が漏れて正しい発音ができない▽十分にかめない▽見た目がよくない、などの問題が起きる。歯並びが悪いため正常なかみ合わせができず、あごの位置がずれる顎(がく)関節症になったり、口の中に食べ物のかすなどが残って歯周病や虫歯になりやすい。
永久歯の欠損が増えている原因として中里さんは、栄養バランスが崩れてカルシウムやミネラルが不足していたり、よくかまないためあごが狭くなって歯が退化していること、保存料や着色料といった食品添加物などの影響を可能性として指摘するが、いずれも因果関係は証明されていない。
乳歯はどんな仕組みで永久歯に生え変わるのだろうか。
「こどもの歯をじょうぶにするQ&A64」の監修者、日本小児歯科学会認定医の羽田宣裕・愛児の会デンタルクリニック院長によると、乳歯は生後6カ月を過ぎたころから生え始め、3歳ごろには上下20本が生えそろう。
6~7歳ごろから永久歯に生え変わり始め、12歳前後で親知らずを除く28本の永久歯列がそろう。生え変わりの時期や順番におおよその目安はあるものの=表、個人差が大きい。
生え変わる時は、永久歯が大きくなって乳歯を押すとともに、乳歯の根を短くする細胞が乳歯を溶かす。すると、乳歯はぐらぐらになり自然に抜ける。永久歯がないと、こうした作用が起こらないため乳歯が抜けない。「1本程度の欠損は、400~500人に1人くらいの割合で見られる」と羽田さん。
永久歯がある場合でも、位置がずれていたり、かみ合わせの影響で乳歯への刺激が少なかったりして、乳歯が抜けないこともある。もし、生え変わりの時期から1年たっても永久歯が生えてくる気配がなければ、永久歯があるかどうかレントゲン撮影で確認してもらった方がいいと、東高円寺歯科クリニック(東京都杉並区)の歯科医師、松原百合子さんは言う。
「本来と違う位置に永久歯が見つかることもあるので、歯科で口の中全体が写るパノラマエックス線装置で撮影してもらうことが大事です」
一方、昭和大学歯学部小児成育歯科学教室の井上美津子助教授は、最近、生まれつき乳歯が足りない先天的欠損や、2本の乳歯がくっついた形の癒合歯が若干増えたという印象を抱いている。多くは前歯だ。
「乳歯の先天的な欠損や癒合歯は永久歯の異常にもつながりやすく、的確な診断と長期的な管理が必要。早めに歯科に相談することが大切です」と話している。
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◇永久歯の生える時期の目安◇
・男児の場合
上あご 下あご
中切歯 7歳3カ月 6歳3カ月
側切歯 8歳5カ月 7歳3カ月
犬歯 10歳10カ月 10歳2カ月
第一小臼歯 10歳 10歳2カ月
第一大臼歯 6歳8カ月 6歳5カ月
*日本小児歯科学会1988年より
(それぞれ±6~16カ月の差がある)
毎日新聞 2005年9月12日 東京朝刊