北朝鮮が発表した核実験について、専門家の間では実際に核実験が行われたとの見方が強い。ただ、世界各国での観測結果は幅があり、比較的小規模な爆発や失敗だったとの分析もある。
米地質調査所(USGS)は、地震の規模についてマグニチュード(M)4.2と発表した。核実験全面禁止条約(CTBT)機関準備委員会(ウィーン)はM4.0(誤差M0.3)としている。一方、日本の気象庁はM4.9と分析し、最も小さいのが韓国の地質資源研究院で観測されたM3.58~3.7だ。
これをもとに、同研究院は爆発の規模をTNT火薬に換算して「最高でも0.8キロトン(800キロ)程度」との見解を明らかにした。一方、ロシアのイワノフ国防相は「5~15キロトン」との見方で、10倍前後の幅がある。
過去の核実験をみると、最初の実験では19キロトンの米国(45年)、22キロトンの旧ソ連(49年)をはじめ、インドの12キロトン(74年)、パキスタンの9キロトン(98年)など、1キロトン以上の規模で実施する例が多い。1キロトン以下の小型核は、それ以上の規模の核爆弾より高度な技術が必要だからだ。
軍事評論家の野木恵一さんは「爆発の規模がM4前後だとしても、TNT火薬なら1~3キロトン相当になる。トラックで何回も運び込まなければならず、偽装は考えにくい。偵察衛星に察知される恐れも高い」と指摘した。さらに、「米国や気象庁の観測データに基づけば、核実験は成功したと言える」と受け止める。
一方、藤田祐幸・慶応大助教授(エネルギー論)は「プルトニウムの核爆弾は、周囲の火薬の爆発力を一点に集中して臨界に達する必要があり、技術的に難しい。今回も一部のプルトニウムが臨界に達しただけで、爆発力が小さかった可能性がある」と語り、「成功」に疑問を示した。
軍事評論家の江畑謙介さんも「実際に核実験をした可能性は高いが、仮に、韓国の観測したマグニチュードに基づくと、TNT換算で0.4~0.5キロトン程度と考えられ、核実験ではなく大量の火薬による爆発でもおかしくない。核兵器としては10キロトン以上ないと、破壊力などの点から見て意味がなく実験としては失敗と考えていい。0.5キロトン程度ではまったく意味がない」と話す。
米モントレー国際問題研究所不拡散研究センターのダニエル・ピンクストン東アジア担当ディレクターは「大量の通常爆薬を使った実験だったとの見方はあるが、核実験を意図したが失敗して爆発の規模が小さくなったり、衝撃波を弱めて小さく見せかけた可能性もある」と分析する。
また、別の外交筋は北朝鮮が実験前後に「安全が徹底的に保証された核実験を実施する」と繰り返したことに注目、地下核実験後に大気中に観測される放射性物質キセノンなどの希ガスが検出されない場合を想定したと指摘している。【ウィーン・会川晴之、ワシントン・和田浩明、科学環境部・江口一】
毎日新聞 2006年10月10日