【ワシントン笠原敏彦】北朝鮮の「核実験」により、ブッシュ米政権では強硬派の立場が一層強まり、米国の圧力重視路線に拍車がかかるのは確実だ。一方で、6カ国協議参加国などとの協調を重視する方針も維持し、北朝鮮と経済的関係が深い中国や韓国などの反応を見極めながら「北の核」の封じ込めに向けて国際包囲網の強化を急ぐとみられる。
6カ国協議の米首席代表、ヒル国務次官補はこれまで「核保有した北朝鮮を受け入れることはない。経済的な(発展を得る)将来か、核兵器か、どちらを選ぶのか」と迫ってきた。北朝鮮がこうした警告を無視して露骨な対決姿勢に出たことで、米国では北朝鮮が「核保有国」として国際社会の認知を目指す決断をしたとの見方が強い。
米国が最も懸念するのは、核兵器・技術の第三者への移転だ。米国はその核開発の封じ込めに向け、安保理で可能な限り強い内容の経済制裁決議採択を目指す一方、有志連合による拡散防止構想(PSI)の強化や北朝鮮を出入りする船舶の臨検などの独自制裁も検討している。
しかし、(1)効果的な制裁には中韓両国の協力が必要(2)イラン核問題やイラク泥沼化などで外交的な前線が伸び切っている--ことなどから当面は突出した独自行動は避けるとみられる。米国は7月のミサイル発射後も追加制裁を発動していない。国防総省筋はその理由を「我々は国際的な圧力を高めていくことを優先している」と説明する。
現時点では、核施設への限定攻撃など軍事行動も想定されていない。
米政府には、北朝鮮の「核保有」現実化が東アジアの安全保障環境を激変させ、情勢の不安定化をもたらすことへの懸念が強い。このため、米戦略国際問題研究所(CSIS)のジョエル・ウィット上級研究員は「米国は、日本や韓国など緊密な同盟国への関与強化を打ち出すことになるだろう」と分析する。
6カ国協議は事実上の「死に体」になるものの、北朝鮮が「朝鮮半島の非核化」への関与に言及しているほか、米国にとって同協議は東アジアの危機管理の枠組みとしても重要となっているため、その枠組みを温存したい意向とみられる。
毎日新聞 2006年10月10日