広島県大竹市沖で昨年1月、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船が衝突し釣り船側の2人が死亡した事故で、運輸安全委員会は9日、調査報告書を公表した。おおすみが釣り船を確認しながら針路と速度を変えずに航行したことと、釣り船がおおすみに近づくように右に針路を変えたことが重なり、衝突に至ったとみられるとした。
そのうえで「おおすみが早い段階で減速などの措置をとっていれば衝突が回避できた可能性がある」と指摘。釣り船が右に針路を変えた理由は「釣り場に向かうため、おすみの前方を横切ろうとしたとみられる」としたが、船長の死亡により意図は明らかにできなかったとしている。
安全委は、おおすみの全地球測位システム(GPS)データやレーダーの記録を用いて両船の航跡を解析。おおすみの艦橋に設置された音声記録装置の内容のほか、釣り船の乗員への聞き取り、事故を目撃した第三者の証言などから当時の状況を分析した。
報告書によると、昨年1月15日、おおすみは当初、左前方にいた釣り船と離れていく針路をとっていた。だが午前7時54分ごろ、左に向きを変えたため、針路が交差するかたちとなった。
おおすみは時速約17ノット(31.5キロ)、釣り船は同15ノット(27.8キロ)以上で航行。両船が速度や針路を変えず進んだ場合、約7分後に釣り船がおおすみの60メートルほど先を横切ると想定された。
しかし、おおすみの針路変更から約5分後、両船の距離が約350メートルまで近づいた段階で、釣り船が徐々に右方向に針路を変更。両船の接近のペースが速まった。
おおすみの艦長(当時)らはその前後に減速を指示したが、実際に速度が落ち始めるまで2分以上かかり、両船はさらに接近。おおすみは右方向に大きくかじを切ったが回避できずに衝突し、釣り船は転覆した。
報告書は、おおすみの見張り体制には問題がなかったとしつつ、釣り船の接近を把握しながら針路や速度を変えずにいたことを問題視した。一方、釣り船側の針路変更も事故原因に挙げた。
安全委は、同種事故の再発防止策として、(1)船の特性を踏まえて監視を行う(2)小型船は大型船の近くを通過しない(3)大型船は適切なタイミングで注意喚起する――ことを求めた。後藤昇弘委員長は「数が多い小型船の操縦者への周知に努める」と述べた。
2008年2月に発生した海自イージス艦「あたご」と漁船の衝突事故では、海難審判所が原因究明を進めたが、08年10月の海難審判法改正で安全委が引き継いだ。行政処分は海難審判所が行う。