【シドニー=高橋香織】オーストラリアの自由党両院議員総会は9日、反対61票、賛成39票でアボット党首の辞任動議を否決した。明確な対抗馬がいない中での党首交代動議は、アボット首相への事実上の信任投票となった。首相は投票に先立ち、国内世論を考慮して豪州企業が新型潜水艦の入札に参加できると確約。日本企業の受注に影響する可能性が出てきた。
4割が首相に不信任を突きつけた形で、自由党議員の1人は日本経済新聞に「予想以上に厳しい結果だ」と話した。緊縮型予算が国民に不人気なうえ、党執行部が「独断専行」との反発が背景にある。
与党支持率は政権が発足した2013年9月の45.6%から今月上旬に35%へ低下。アボット氏は失敗から学んだとして「今後は党内によく相談を図る」と改善を約束。投票前日には豪州が調達を計画する新型潜水艦で新たな方針を表明した。
首相は8日のABC放送とのインタビューで「豪州企業に機会を与えるのは当然」と述べた。国営造船企業ASCを地元に抱える南オーストラリア州の自由党議員は「ASCが入札に参加できるのは素晴らしい」と歓迎。地元報道によると、豪政府はこれまで日本やドイツなど海外政府に入札を限る方針だった。
首相は潜水艦の選定は「防衛上の要件から判断する」として国内の雇用維持を優先しない姿勢を示していたが、動議での支持を広げるため、これを転換したと受け止められている。豪州は川崎重工業や三菱重工業が建造する静粛性に優れた日本の潜水艦に関心を持ち、日本と技術協力を検討している。
アボット首相は9日、投票結果を受けて「党内の不和と不安定さを終わらせる」と述べた。財政再建や減速する経済の立て直しなど課題が山積するなか、今回は難を逃れたものの、引き続き難しい政権運営のかじ取りを問われる。