聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。
寒い日が続くこの時期。ラーメンやうどん、鍋など、温かい食べ物が恋しい季節だ。ところで、こういった熱々のものを食べると、鼻水がズルズル出てくる人がけっこういる。ラーメン屋のテーブルによく箱ティッシュが置いてあるのも、この現象がかなり普遍的であることの1つの証といえるだろう。
なぜラーメンで鼻水が出るのだろう。JCHO(ジェイコー)東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科部長の石井正則氏は、主に2つの理由があると話す。
熱い湯気の刺激から粘膜を守る防御反応
「1つ目は、熱い湯気を鼻水の気化熱で冷まそうとするラジエーター作用。熱さの刺激を和らげようとする反射的な反応です」
体には、体内の環境をできるだけ一定に保とうとする働きがある。外気が暑くなったときに、汗をかいて体温を下げようとするのは、代表的な体温維持のメカニズムだ。同様に、鼻の中で「熱い!」という刺激を感じたときは、鼻水を出して熱を冷まそうとするのだ。
熱い湯気が体内に入るのを鼻水が防ぐ
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鼻の中で「熱い!」という刺激を感じたときは、鼻水を出して熱を冷まそうとする。
そうか。熱さを感じた鼻粘膜が、汗をかいているようなものか。
「逆に、寒い日に急に野外に出て冷気にさらされた場合には、冷たい刺激に反応して鼻水が出ます。いずれも、急激な温度変化を和らげ、粘膜を守っているのです」
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1日に出る鼻水は1.5リットル
鼻水は、普段から体を守るために働いている。1日に分泌される量は約1.5リットル。これが鼻粘膜の表面をまんべんなく覆って湿り気を保ち、吸い込まれた異物を取り除く。
通常、鼻水の大半はのどの奥へ流れこみ、唾液などと一緒に胃へ飲み込まれる。湯気を吸い込んだときには量が増えるので、外にあふれるわけだ。
さらに風邪や花粉症になると、鼻水の量が飛躍的に増える。これは、大量の花粉やウイルス感染といった刺激によって、炎症反応が起きるためだ。異変を感知した白血球などの免疫細胞が鼻粘膜に集まり、「ヒスタミン」という物質などを放出。この刺激で鼻水の分泌量が急激に増加する。同時に粘膜が腫れて鼻腔が狭くなるので、鼻詰まりも起きてしまう。
「鼻水で細菌や花粉を洗い流し、“通路”を狭めてこれ以上の侵入をブロックする。防御反応の一環です」
なるほど。細菌や花粉を追い出すのも鼻水。暑さ寒さから粘膜を守るのも、鼻水。実は、体のために頑張っていたんだな。
コショウの辛さで鼻水が増える
ラーメンの辛味を感じると鼻水が出やすくなる。(©Tagstock Japan/123RF.com)
さて、話をラーメンに戻そう。2つ目の理由とは何だろう。
「ラーメンは、コショウやトウガラシなどで辛くしますね。辛いものを食べると、鼻水が出やすいのです」
辛いから鼻水? 意外な結びつきにも思えるが、ここには自律神経の働きが関わっている。自律神経は、体の中のさまざまな機能を調節する神経で、主に体が緊張したときに働く交感神経と、主にリラックスしたときに働く副交感神経の2系統がある。鼻水をコントロールしているのは副交感神経だ。
「辛いものを食べると、舌と胃粘膜にある辛味センサーが反応し、脳の中の『中枢自律神経線維網』というネットワークが反応します。すると、交感神経と副交感神経が両方とも活性化するのです」
交感神経の働きで、汗が出る。一方、副交感神経の作用によって、唾液や消化液、そして鼻水の分泌が増える。辛さの刺激によって鼻水が増えるこの現象は「味覚性鼻炎」と呼ばれ、ラーメンのほかにも、カレーライス、スパイスが効いたスープや鍋などを食べたときによく起きるそうだ。
「この反応は個人差があります。汗ばかり出る人もいますし、鼻水ばかり出る人もいます。両方が出る人もいます」
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のどちんこを冷やせば鼻水は出ない?
なるほど~。では、鼻水を出さない食べ方はないのだろうか?
「コショウをかけすぎないのが基本です」と石井さん。さらに、こんな方法も教えてくれた。
「食べる前に氷(アイスキューブ)をほおばり、舌でのどちんこの辺りにしばらく押し付けてキンキンに冷やします。こうすると副交感神経が麻痺して、まったく鼻水が出ません」
ほぉ、そうなんですか。
「ただし、口の中の感覚も麻痺するので、全然美味しくない。しかも、食べ始めるとすぐに口腔内が温まって、効果も消えます。実験としては面白いですが、実用的ではないでしょう(笑)」
あー、それは残念。まあ、体がスパイシーな美味しさを感じているサインと受け止めれば、鼻水もそう悪くない気がする。寒い日は、鼻水をすすりながらホットなものをいただきましょう。
(次回はおしっこが黄色いわけについて解き明かします)
石井正則(いしい まさのり)さん
JCHO(ジェイコー)東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科部長
東京都生まれ。1980年、東京慈恵会医科大学卒業。1984年、同大学大学院卒業と同時に、米ヒューストン・ベイラー医科大学耳鼻咽喉科教室へ留学。1990年、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科講師、2000年に同大学准教授。岐阜大学臨床教授。日本耳鼻咽喉科学会評議員、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙医学審査会委員などに携わる。 著書に『鼻の病気はこれで治せる』(二見書房)など。
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聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。
寒い日が続くこの時期。ラーメンやうどん、鍋など、温かい食べ物が恋しい季節だ。ところで、こういった熱々のものを食べると、鼻水がズルズル出てくる人がけっこういる。ラーメン屋のテーブルによく箱ティッシュが置いてあるのも、この現象がかなり普遍的であることの1つの証といえるだろう。
なぜラーメンで鼻水が出るのだろう。JCHO(ジェイコー)東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科部長の石井正則氏は、主に2つの理由があると話す。
熱い湯気の刺激から粘膜を守る防御反応
「1つ目は、熱い湯気を鼻水の気化熱で冷まそうとするラジエーター作用。熱さの刺激を和らげようとする反射的な反応です」
体には、体内の環境をできるだけ一定に保とうとする働きがある。外気が暑くなったときに、汗をかいて体温を下げようとするのは、代表的な体温維持のメカニズムだ。同様に、鼻の中で「熱い!」という刺激を感じたときは、鼻水を出して熱を冷まそうとするのだ。
熱い湯気が体内に入るのを鼻水が防ぐ
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鼻の中で「熱い!」という刺激を感じたときは、鼻水を出して熱を冷まそうとする。
そうか。熱さを感じた鼻粘膜が、汗をかいているようなものか。
「逆に、寒い日に急に野外に出て冷気にさらされた場合には、冷たい刺激に反応して鼻水が出ます。いずれも、急激な温度変化を和らげ、粘膜を守っているのです」