【モスクワ=田中孝幸】15日に発効したウクライナ東部での停戦合意が早くも崩壊の危機にさしかかってきた。17日にはドネツク州の要衝デバリツェボで包囲された数千人の政府軍部隊と親ロシア派の武装勢力の戦闘が激化した。親ロ派がデバリツェボの相当部分をほぼ制圧したとの情報もある。一方で重火器の撤去などの状況をみる監視団は現地入りできていない。
ウクライナ政府の発表によると、デバリツェボの近郊を占拠した親ロ派の部隊の一部はすでに市内に攻め入り、鉄道駅を掌握した。行政庁舎の付近など市街地で激しく交戦しており、親ロ派幹部は17日、「デバリツェボの大部分を制圧した」と主張した。
16日、ウクライナ東部デバリツェボ近郊で警戒する政府軍(ロイター=共同)
「(親ロ派は)攻撃を集中させ、一気に奪い取ろうとしている」。ウクライナ政府軍の当局者は17日、東部の大半の前線では停戦が守られている半面、デバリツェボで前日夜から15回にわたり攻撃を受けたと発表した。「敵がどう試みてもウクライナ軍は決して降伏しない」とも表明した。ウクライナ高官は停戦合意を守っていないとして、ロシアを批判した。
これに対してロシアメディアによると、親ロ派幹部は17日午前、「デバリツェボは我々の領土であり、戦いをやめることはできない」と訴えた。前日からの24時間で政府軍が17回の停戦違反を犯したと非難した。
戦闘が収まらない背景には、12日に発表したばかりの停戦合意でデバリツェボなどの最前線地域について、政府と親ロ派のどちらの支配地域に属すかあいまいにされたことがある。親ロ派側には交通の要衝で攻め取りやすいデバリツェボを今のうちに支配下に収め、今後のウクライナ政府との境界画定などの交渉を優位に進める思惑があるとみられる。
首脳間の徹夜の協議を通じてロシア、ウクライナとの難しい調整にあたったドイツ、フランス両国はデバリツェボが陥落すれば、ウクライナ側の反発によって停戦合意が破綻しかねないと懸念を強めている。メルケル独首相は16日、ロシアのプーチン大統領と電話し、停戦に向けた親ロ派への影響力の行使を求めた。
見通しは暗い。親ロ派幹部がそろって町の奪取を目指す発言をしており「親ロ派はプーチン氏の意向に忠実に動いている」(欧州外交筋)との見方も広がっている。インタファクス通信によると、ロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)は16日、「以前と比べるとデバリツェボ周辺の状況は改善した」と述べるにとどめた。
停戦合意の最初の関門である前線からの重火器の撤去は、開始の期限とされた16日を過ぎても、なお実施のメドはたっていない。欧州安保協力機構(OSCE)は17日、停戦監視団がデバリツェボにまだ入れていないと明らかにした。
ウクライナ、親ロ派、ロシア、OSCEの代表者は17日、4時間にわたってビデオ会議を開いた。ウクライナメディアによると、停戦合意の履行を巡る話し合いは難航し、打開策を見いだせずに終わった。
政府軍によると、主要都市ドネツク近郊の国際空港や南東部の要衝マリウポリ周辺でも砲火は収まっていない。デバリツェボの戦火がさらに激しくなれば、沈静化しつつある他の地域の戦闘も再燃する可能性がある。