トヨタ自動車は4日、2015年度の新しい経営体制を発表した。社長の補佐役と位置づけた副社長に初めて外国人を登用、多様な視点で経営全般を監督するようにする。若手役員をグループ会社に転出させ、そこで経営手腕を発揮すれば再び本体に戻す仕組みも取り入れる。さまざまな経歴を持つ人材を経営陣に取り込んでグループ全体の底上げを図ると同時に、次世代の経営者育成にも本格的に乗り出す。
目玉のひとつはディディエ・ルロワ専務役員の副社長昇格。6月に開く株主総会で正式に決める。6人いる副社長は、内山田竹志会長、豊田章男社長とともに経営にとって重要な戦略判断や決定にかかわる権限を持つ。外国人副社長を登用してグローバルな視点を取り込み、世界で1000万台超を売る組織に見合った経営を目指す。
副社長そのものの役割も変えた。現在、副社長は先進国や新興国など各部門の責任者をつとめているが、新体制では6人中4人を無任所とする。技術や生産、経理などこれまでのキャリアで培ってきた知見を生かし、社長の補佐的な役割を強化する。「『番頭』として大所高所からの意見を出してもらう」(関係者)狙いだ。
新体制のもう一つのポイントは役員の「退任」を人材育成に使った点だ。今回、専務役員、常務役員あわせて8人がトヨタを出るが、「何人かは『武者修行』として経験を積ませるためにグループ会社の経営幹部に転出させる」(関係者)。そこで実績を出せばトヨタ本体に戻し、経営の中核を担わせるもようだ。
新体制では専務役員以下が原則として執行の責任を追う。社外取締役を除くと47人にのぼる専務役員、常務役員にはこれまでのトヨタの役員では無かった経歴の人を充てるようにした。
まず、グループのデンソーとアイシン精機の生え抜き役員を初めてトヨタの役員として受け入れる。これまではトヨタからの一方的な転出があるだけだった。トヨタはグループ会社の再編を進めている。制御システムに強いデンソーとエンジン駆動システムにたけたアイシンとの連携を人事面でも強め、グループ経営力を強化する。
さらにトヨタの企業内学校を出て、工場現場一筋で来たベテランの河合満氏(67)を生産技術と生産を担当する専務役員にする。企業内学校から役員にまで上り詰めるのは初めて。ものづくりの現場にいる社員の士気を高めるほか、ベテランも生かす姿勢を社内にアピールする狙いもある。
女性役員も初めて登用する。米国で広報を長くつとめてきたジュリー・ハンプ氏を4月から東京に常駐させる。安倍政権が女性の活用を求めており、その流れにも配慮した形だ。
豊田社長は今回の人事を「内閣改造」と表現する。組織を大きく変えることはなかったものの、持続的成長を可能にするため、人を大幅に入れ替え、10年、20年先をにらんだ布陣にした。経営陣に多様な人材を集めることで、トヨタは「攻め」と「守り」の双方に強い経営を目指す。