東京・有明の東京ビッグサイトで21日、日本最大級のアニメイベント「アニメジャパン2015」の一般向けの展示が始まった。アニメ制作会社や出版社など149社・団体が出展し、22日までの2日間で12万人の来場を見込む。初日は各社が新作アニメや動画配信の新サービスを発表。特に力を入れるのが、若者の動画視聴の主流になりつつあるスマートフォン(スマホ)への対応で、会場からは「安・近・短」のキーワードが見えてきた。
「スマホでアニメが見放題!」。衛星放送などでアニメ専門チャンネルを手掛けるアニマックスブロードキャスト・ジャパン(東京・港)は、4月から始めるスマホ向けサービスの試験放送を公開した。NTTドコモ子会社のmmbi(東京・港)が運営するネット放送局「NOTTV」にチャンネルを設けるもので、スマホで放送波を受信して視聴する。
ポイントの一つが「料金の安さ」だ。アニマックスのチャンネルを衛星放送で契約すると月額800円程度だが、NOTTVでは同じ番組が同300円(税別)。スマホで見るが、放送波を使うのでデータ通信量の制約は受けず、好きなだけアニメを見られる。
衛星放送の既存顧客がスマホに乗り換える恐れもある。だが、アニマックスの小田正人副社長は「どこでもいつでもアニメを見たいという人たちにとって、スマホは非常に向いている」と意に介さない。若年層を中心にスマホ、つまりいつも「近くに」持ち歩く道具でアニメを視聴する人が増えており自信を示す。
NTTドコモとKADOKAWAの共同出資会社、ドコモ・アニメストア(東京・千代田)が運営する「dアニメストア」のブースに会員特典のプレゼントを受け取りに来たという20歳代の女性は、「スマホなら、ちょっとした時間にアニメを見られるので便利」と話す。
従来、アニメは漫画や小説を原作とすることが多かったが、スマホアプリ(応用ソフト)発のアニメが誕生する。
「スマホ時代の手塚治虫を生み出す気概で頑張る」。NHNプレイアート(東京・港)の稲積憲社長は21日、無料漫画アプリ「comico(コミコ)」を原作にしたアニメ作品の制作発表会で意気込みを語った。
1話完結型のギャグ漫画「ナルどマ」などアプリで人気の5作品を5月から順次アニメ化する。隙間時間に視聴されるスマホのアニメは気軽に「短い時間」で楽しめる作品が向いている。
スマホの活用は官民で取り組んでいるアニメの海外輸出でも進む。バンダイナムコホールディングスや官民ファンドのクールジャパン機構が出資するアニメコンソーシアムジャパン(東京・品川)は、4月に始める本格的な海外配信に合わせてスマホサイトを整備する。
動画配信だけでなく、アニメ制作者のインタビューや開発秘話などを掲載する。海外で日本のアニメの人気は高いが、海賊版サイトも多い。「配信タイトルの品ぞろえだけでなく、周辺情報の充実で差別化する」(鵜之沢伸社長)。
アニメ業界が「スマホシフト」するのは、雑誌やテレビなど様々な媒体を組み合わせてコンテンツを展開する「メディアミックス」の出力先の1つとして、スマホが欠かせない存在になっているためだ。
従来は雑誌で連載した漫画を単行本にし、人気作をアニメ化、テレビ放映後にDVDやキャラクター商品を販売して収益を上げるというビジネスモデルが確立されていた。だが若年層のテレビ離れで、スマホへの対応を余儀なくされた。
一方、スマホは利用データを集められる強みがある。消費者の志向を分析しやすく、「アニメ制作会社にとって、スマホは格好の『実験台』になる」(NHNプレイアートの稲積社長)。
スマホ漫画の閲覧者数や読者層を見れば、人気が出そうな原作を発掘できる。動画配信の視聴者層を分析すれば、関連グッズの販売や続編の企画などに役立てられる。人々の生活スタイルを変えたスマホは、アニメ業界にも変革を起こしている。
(企業報道部 玉置亮太、村松洋兵、新田祐司、長田真美)