東北電力は26日、原田宏哉副社長が社長に就く人事を発表した。社内では「次は原田氏」との声も多く“大本命”が昇格するトップ人事となった。在任5年の海輪誠社長がこのタイミングで交代を決めたのは、東日本大震災からの復旧に一定のめどがつき、コスト削減や料金引き上げで業績面でも黒字確保が見通せるようになったという背景があるようだ。
「火力・水力などの電源設備復旧はほぼ終了した」。海輪社長は同日の記者会見でこう話した。震災で同社の発電所などの設備は大きな被害を負ったが、電力需要が拡大する時期も需給が逼迫することはなく、この冬も乗り切ることができた。
経営基盤も安定してきた。2013年9月に電気料金を引き上げ、設備の修繕を先延ばしにするなどぎりぎりのコスト削減にも取り組んでおり、15年3月期の連結決算は2期連続の黒字を確保できる見通しだ。海輪社長がバトンタッチするには最適のタイミングと考えても不思議ではない。
しかし、原田新社長も就任直後から難題に直面することになる。
ひとつは原子力発電所の再稼働だ。東北電は女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)と東通原発1号機(青森県東通村)の安全審査を原子力規制委員会に申請済み。女川は16年4月以降、東通は16年3月の再稼働を想定しているが、両原発とも審査は難航している。特に東通原発は、敷地内に活断層の存在を指摘されるなど楽観しにくい状況が続いている。
もうひとつは16年4月に始まる電力小売りの全面自由化だ。これまで地域独占で電気を売ってきた電力会社は地域を越えた競争にさらされる。東北電は顧客のニーズ調査や料金体系改定などで販売力を強化する方針だ。
もちろん、海輪社長もこうした状況を承知のうえで原田氏を指名した。「物事を柔軟に捉えるしなやかさと、物おじせず何にでも飛び込む豪胆さを兼ね備えている」。同日の記者会見で原田氏をこう評した。
原田氏は震災時発生時は企画部長として計画停電を回避するため経済産業省などとの連絡・調整に奔走。その後、東京支社長に就くと東北電の被災状況や経営状況、原発再稼働に向けた取り組みを政府に説明する役割を担ってきた。電力行政や業界事情に精通し、難題に挑むだけの経験を積んだと判断したようだ。
こうした期待に応えるべく、原田氏も小売り自由化には積極的に対応する考えを示している。同日の記者会見では「小売りが全面自由化されれば、首都圏は我々がマーケティングをする潜在的な場所になる」と話し、これまでの営業エリア外への進出を検討していることを明らかにした。