欧州はウクライナ危機に気を取られ、冷戦という古めかしい捉え方が復活している一方、南側からの脅威を見落とすというリスクを冒している。イタリアの外相はこう警鐘を鳴らす。
「(欧州)北東部の境界線での出来事は20世紀的な視点からみて完璧に理解しやすい筋書きだからといって、我々はそこばかりに目を向け過ぎだ」。ジェンティローニ外相はフィナンシャル・タイムズ紙の取材にこう答えた。
船での国外脱出を図り難破、救助されたシリア人。イタリアへ入国できるのを待っている。今年1~2月にイタリアに到着した移民は8000人に迫る(4日、イタリア南部シチリア)=AP
「移民、テロリズム、宗教対立、貧困……。さらには我々の社会へのリスクを考えたとき、南側の境界線で起きている事態のほうが重要とはいわないまでも、深刻度が低いとはいえないだろう。マリからパキスタンまでの地域は欧州にとって重大な試練であり、優先度は同じだ」
ジェンティローニ氏はイタリアの貴族出身で、若手の左派リーダーとして政治の道に入った。前任のモゲリーニ氏が欧州連合(EU)の外相にあたる外交安全保障上級代表に就任した後を引き継ぎ、5カ月前にイタリア外相に指名された。同氏はこの重大な局面で、外交政策のかじ取りをしている。
■バルカン紛争以降、最大の脅威に直面
北側でイタリア政府は、経済制裁をめぐり欧州の結束が試される対ロシア政策について、より慎重で、穏健派ともいえる路線を求めている。
南側では、イタリア政府は1990年代のバルカン紛争以降ではほぼ間違いなく最大の安全保障上の脅威に直面する。リビアは内戦で分裂状態にあり、過激派組織「イスラム国」(IS)は北アフリカ沿岸に足がかりを築いている。200マイルを渡ってイタリアへやってくる移民は記録的な数にのぼる。テロへの恐怖は増し、イタリアの社会構造を揺るがしている。
ジェンティローニ氏はリビアに挙国一致体制の政府を樹立するために国連が主導する協議を支持するが、「成功するかは難しい」と認め時間が足りないとしている。国際的に認められた政府はトブルクを拠点とするが、昨年トリポリを掌握したイスラム勢力と激しく対立している。ジェンティローニ氏は国連主導の協議は「あと数週間で」失速するだろうとしながら、期限を定めるべきではないとする。「期限をあえて待とうとする動きも出かねないから」と同氏は指摘する。