熊本地震で亡くなった脇志朋弥(しほみ)さんの遺影を手に、卒業式に列席した遺族=19日午後1時22分、熊本市、金子淳撮影
熊本地震で被災した東海大の卒業式が19日、熊本市内で開かれ、閉鎖中の阿蘇キャンパス(熊本県南阿蘇村)で学んだ学生たちが新たな一歩を踏み出した。
式には卒業生や保護者ら約千人が参加。南阿蘇村で犠牲となった農学部の脇志朋弥(しほみ)さん(当時21)の家族も加わり、妹で高校1年の麻奈好(まなみ)さん(16)が特別学位記を受け取った。
脇さんの友人で農学部の成木翔太さん(22)が地震を振り返り、「はかりしれないほどの恐怖と悲しみを経験したが、多くの支援があったから乗り越えられた」と答辞を読んだ。村の学生下宿の大家たちも駆けつけ、色とりどりのはかまやスーツに身を包んだ晴れ姿の卒業生たちを笑顔で迎えた。大家の一人、竹原伊都子さん(56)は「地震を乗り越え、子供たちは成長した。社会に出ても大丈夫」とエールを送った。
南阿蘇村では昨年4月16日の本震で多くの民家や学生寮、アパートが倒壊。東海大の学生3人も犠牲になった。阿蘇キャンパスは使えなくなり、約800人の学生が熊本市内に移った。
卒業式の朝、農学部の前原教志(たかし)さん(22)は南阿蘇村にいた。同級生だった脇さんが亡くなったアパート跡地や、阿蘇大橋崩落現場付近で遺体が見つかった大和晃(ひかる)さん(当時22)の被災現場を訪ね、花を手向けて手を合わせた。
前原さんは大自然の中で農業を学べる環境にひかれ、阿蘇キャンパスを選んだ。地震直後は「大家さんや地元の人たちを置いて行けない」と村に残って避難所の運営を手伝い、村を離れた後もたびたび足を運んで倒壊家屋での貴重品探しなどのボランティアを続けた。地震発生から半年の昨年10月には「学生と、大家や地区の人たちの再会の場をつくりたい」と、一緒に灯籠(とうろう)をともす集いを仲間や村の人たちと開催した。
就職せず、熊本に残ってボランティアを続けることも一時は考えたが、昨年末、郷里の岡山県に帰ろうと決めた。村のために催しを企画したり、語り部として地震の経験を伝えたりし始めた後輩たちの姿を見て安心したという。「これからは自分の人生を歩んでいこうと思った」
4月から岡山県内の公立高校で農業の講師として教壇に立つ。経験をもとに、普段から災害に備え、地域のつながりを育んでおく大切さを伝えるつもりだ。「それが、亡くなった人たちの思いをつなぐことになると思うんです」(小原智恵)