【ペリリュー(パラオ)=朝倉侑平】太平洋戦争で多くの命が失われた南洋の激戦地で9日、鎮魂の祈りがささげられた。戦後70年の節目に当たり、10年越しで実現した天皇、皇后両陛下のパラオ・ペリリュー島訪問。両陛下は戦地に倒れた人々に思いをはせ、花を手向けられた。立ち会った関係者らは万感の思いで見つめた。
ペリリュー島最南端の突端に立つ「西太平洋戦没者の碑」。真っ青な海を望む慰霊碑の周辺には打ち寄せる波の音が静かに響く。午前11時前、両陛下は慰霊碑の前にゆっくりと進まれると、供花台の上に白菊を供え、静かに拝礼された。
慰霊碑は戦時中に西太平洋の島々や周辺海域で亡くなった人々を慰霊するため、日本政府が1985年に建立した。拝礼を終えた両陛下はその脇に立たれた。視線の先にはアンガウル島が浮かぶ。ペリリュー島と同じく米軍が上陸戦を展開し、日本人約1200人が戦死した島だ。両陛下はその島に向かい改めて拝礼された。
両陛下にとって今回のパラオ訪問は10年越しの宿願だった。政府は戦後60年を前に、パラオを含む西太平洋の3カ国訪問を検討したが、当時は通信や移動手段が十分でなく、見送られた。両陛下は今回の訪問に当たり、生還した元日本兵や戦史の研究家、両国政府関係者などを皇居・御所に招き、熱心に話を聞かれてきたという。
慰霊碑近くで両陛下の供花を見守った人の中には、3月下旬に両陛下と面会した元日本兵、土田喜代一さん(95)の姿もあった。「1万名近い戦友がどんなに喜ぶか」。ペリリュー島で日本軍守備隊約1万人が玉砕した後も2年半近くジャングル生活を続け、生還した土田さんは、万感の思いでこの日を迎えた。
同島で遺骨収集に長年携わってきた「水戸二連隊ペリリュー島慰霊会」の影山幸雄事務局長(70)は「両陛下の訪問はペリリュー島だけでなく、海外戦没者全てに対する慰霊になる。70年前に悲惨な歴史があったことを、多くの人が胸に刻んでほしい」と語る。
陛下は今回のパラオ訪問の出発にあたり、同島で戦死した米軍約1700人へも心を寄せ、「太平洋に浮かぶ美しい島々で、悲しい歴史があったことを決して忘れてはならないと思います」と述べられた。その思いを激戦地に散った全ての命への鎮魂の祈りで、自ら果たされた。