それはおそらく米国の選挙史のなかで最も待たれた出馬宣言だっただろう。だがこれほど待ったにもかかわらず、ヒラリー・クリントン氏の出馬宣言の内容は非常に軽いものだった。出馬宣言ビデオの冒頭で、同氏は米国民の票を「獲得する」ために出馬すると述べたが、それは妥当な姿勢だった。同氏の2度目の大統領選出馬における第一原則は、自分の権利をほのめかすべきではないということだ。しかし、それよりも同氏が大統領に選ばれたら何をするのかということがあまり明確でない。それを打ち出さない限り、そして打ち出すまでは、有権者が同氏の動機に疑問を投げかけるのは当然といえる。
米大統領選挙に向け再出馬を表明したヒラリー・クリントン氏=ロイター
外交政策に関する課題がもっとも険しさが少ない。元米国務長官のクリントン氏は民主、共和両党の中で最も経験豊富な指名候補者となる可能性がある。反対派は同氏が国務長官在任中の4年間で目立った業績をほとんど残していないと主張するが、それは公平性に欠ける。同氏が自ら指し示せるような画期的な条約などは結ばれなかったが、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の好戦的な単独行動主義からのオバマ大統領の歓迎すべき路線修正を支援した。
さらに、オバマ氏の「アジア基軸」戦略の骨組みをつくったのはクリントン氏だ。この外交行動の論理は恒久的なものだ。中東の混乱は続いているが、それによって米国がアジア重視強化の姿勢を弱めるべきではない。同氏はまた、後任のケリー国務長官が今月達成したイランの核問題に関する枠組み合意についても、その一部は自分の功績だと主張できる。クリントン氏はイランを交渉の場に引き戻した制裁の総合調整に尽力したからだ。
■世界と関わる意欲を見せるべき
2016年の大統領選挙キャンペーンが熱を帯びると、クリントン氏はオバマ大統領の遺産を守るよう求められるだろう。同氏はその基本的な枠組みを拒むことはできない。政治的な理由から、同氏は親イスラエルのタカ派ロビーの支持を得るために、対イラン合意から距離を置きたい誘惑に駆られるだろうが、それは我慢すべきだ。締結されると仮定すれば、対イラン協定は米国の大きな国益になるはずだ。だが、同氏はより持続的な米外交の中でオバマ氏より世界と関わる意欲の強さを示すことができるし、そうすべきだ。同氏がオバマ氏より若干タカ派寄りであっても、それは罪にはならない。同氏の中道派としての感覚は米国民のムードに広範に適合している。同氏が明らかにしたように、オバマ氏の「愚行を犯すな」というスローガンは外交政策の教義にはならない。