「老後が心配だったけれど、気持ちが楽になりました」。横浜市でパートとして働く奥村由美子さん(仮名、53)は話す。62歳になる会社員の夫と話し合い、残っていた住宅ローン800万円を一気に完済することにした。奥村さんは「これで老後の家計に余裕が生まれそう」という。
奥村さん夫婦が住宅ローンを完済するために利用したのがリバースモーゲージローン。55歳や60歳など一定年齢以上の人を対象に、銀行が融資する商品だ。利用者ははじめに自宅の土地・建物を担保として銀行に差し入れる。現金が必要になったら、銀行が定めた金額の範囲内で借り入れることができる(図A)。
最大の特徴は、返済の仕組みにある。生きている間に返済する義務がないからだ。亡くなった後、遺族などが手続きをして担保不動産を売却し、その代金で一括返済する。子どもがいない夫婦など死後に家は不要という世帯が、ゆとりある老後生活のために現金を借りるための商品といえる。
総務省の調査によると、60歳以上のリタイア世帯の家計は平均で年71万円の赤字になっており、貯蓄を取り崩してしのいでいる。貯蓄額は平均2000万円足らず。蓄えが尽きることへの不安を抱える世帯は多い。住み続けながら家を現金化できるリバースモーゲージの需要はここにある。
■3メガ銀出そろう
取り扱う金融機関は2年ほど前から急増し、現在は地銀を中心に約30ある。3メガバンクの商品も出そろった(表B)。東京スター銀行の場合、今年3月末の契約数は前年比27%増の約4200件(グラフC)。「返済負担が重い住宅ローンを借り換える契約者が目立って増えている」(ローンビジネスグループ)。みずほ銀行でも、問い合わせが累計約2500件に達するなど関心が高い。