【ジュネーブ=原克彦】北アフリカのリビア沖で19日、約700人を乗せていたとみられる難民船が転覆した。ANSA通信などが報じた。救助されたのは28人にとどまり、ここ数年の難民船事故では最悪の被害になる可能性がある。
北アフリカのリビア沖で19日、難民船が転覆した。捜索するイタリア沿岸警備隊の船の映像=イタリア沿岸警備隊提供・ロイター
イタリアのレンツィ首相は19日、難民・移民問題に関する緊急のEU首脳会合を1週間以内に開くよう加盟国の首脳らに呼びかけた。イタリア国内では同日中に閣僚会議を開き、対応を協議する予定だ。
AFP通信によるとイタリアとマルタの海上保安当局が、リビアとイタリア南端ランペドゥーザ島の中間点辺りから遭難信号を受信した。要請を受けたポルトガル籍の商業船が現場で船の転覆を確認した。現在も救助活動が続いている。
船で地中海を渡り欧州を目指す難民はシリアやイラクでの戦闘が激しくなるにつれて増えている。最近は内戦状態に陥ったリビアで過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)のグループが勢力を増したことも、こうした難民の増加に拍車をかけている。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の推計によると、今年だけで15日までに約900人が難民船で死亡した。転覆事故に加え、病気や食料不足から船上で死亡することも多い。
19日の事故を受け欧州連合(EU)のモゲリーニ外交安全保障上級代表は「今こそEUがこのような悲劇に急いで対応するときだ」との声明を発表した。ローマ法王フランシスコも同日、日曜恒例の祈りの集いで事故に言及し「悲劇を繰り返さないよう、断固たる迅速な行動」が必要と語った。
難民船の救助活動は2013年からイタリアが本格化したものの、リビア沖にまで出向く負担が大きいため14年秋に終了した。その後はEUの専門機関が監視と救助を手掛けるが、対象範囲が狭いこともあり効果は限られている。
中東・北アフリカでは難民を密航船に乗せる仲介業が横行している。昨年末からは仲介業者が難民船を自動操縦にして船から去るという事件も相次いだ。一方、欧州側では難民に紛れてテロリストが入国することへの警戒感も強い。