自衛隊の活動範囲を広げる安全保障関連法案の閣議決定を受け、今後の焦点は国会審議での与野党攻防に移る。民主党など野党は自衛隊の活動の歯止め策は不十分と追及し、論戦の焦点になる。安倍晋三首相は14日の記者会見で今国会での成立を強調したが、与党の圧倒的な数の力を持っても楽な道のりではない。世論の動向も影響を与えそうだ。
「国民の皆さんに、国会を通じて丁寧な説明を重ねていきたい」。首相は14日、官邸で会った自民党の高村正彦副総裁にこう語った。同日の記者会見では、今国会での成立をめざす考えを重ねて力説した。
政府は14日に閣議決定した安保関連法案を15日に衆院に提出する。与党は審議する場として、定例日に関係なく連日審議ができる特別委員会を設置する方針。過去の安保関連の大型法案並みに衆院で80時間程度の審議時間を確保する考えだ。
最大の争点となるのが、首相が自衛隊の海外派遣の厳格な歯止めとして強調した集団的自衛権行使の新3要件の実効性だ。民主党は新3要件では自衛隊の歯止めない活動拡大につながると指摘、日本の専守防衛を根底から覆すと批判する。維新の党も新3要件を厳格にするよう求める。
具体的な自衛隊の活動範囲も激しい論戦となりそうだ。政府は集団的自衛権の対象として、中東ホルムズ海峡での機雷掃海も具体例として示しているが、民主党は「切迫性に欠ける」と批判。周辺事態法を「重要影響事態法案」に衣替えして、従来の「日本周辺」に事実上限定してきた地理的制約を撤廃することも認めない立場だ。
審議入りに先だって野党は「入り口」でも抵抗を強める。民主党の岡田克也代表は10本の法改正案を一括で審議させる政府方針を「国民に理解してもらおうという姿勢がない」と批判。15日の与野党国会対策委員長会談で、野党は21日の審議入りを目指す与党提案を拒否する構えだ。
与党は審議入り日程では譲歩も視野に入れ、審議が始まるのは早くて26日になる見込み。入り口から日程で激突する事態を避けるが、実質審議に入った後、どこまで与党ペースで進められるかは見通せない。
与党からも「重要法案でなるべく幅広い合意形成を目指すのはどの政権も同じだ」(公明党の山口那津男代表)との声があり、審議時間の確保へ与党側は6月24日までの会期を1カ月以上延長することを検討する。しかし、国会法の規定で通常国会の会期延長は1回だけ。法案の重さを考えれば延長しても審議日程は十分とはいえない。
与党側は与党単独での強行採決を避けるため、維新との修正協議も視野に入れる。しかし、維新の江田憲司代表は14日の記者会見で「まだ何も決めていない」と指摘。与党の狙い通り野党を分断できるかどうかは予断を許さない。
日本経済新聞社が4月に実施した世論調査によると、法案の今国会成立に「反対」は52%で「賛成」は29%。3月時点に比べその差は3ポイント広がっており、法案の審議入りが近づくにつれて反対派が勢いを増している。野党側はこうした世論をテコに与党への攻勢をかけるとみられる。与野党攻防は、世論を意識した展開になる。