福岡県春日市教育委員会は27日、市内の須玖タカウタ遺跡で、国内最古となる紀元前2世紀ごろ(弥生時代中期前半)の青銅鏡鋳型の破片が見つかったと発表した。これまで鏡の国内生産は紀元後1世紀ごろから始まったとされ、それをさかのぼる青銅鏡鋳型の出土例はなかった。専門家は「鏡の製作史を見直す貴重な発見」としている。
遺跡は、中国の歴史書「魏志倭人伝」に登場する奴国の中心部にあり、青銅器生産の一大拠点として知られる。青銅器の中でも鏡は所有者の権威を象徴する希少品で、市教委によると、古い鏡はこれまで朝鮮半島や中国からの渡来品に限られるとみられていた。
市教委によると、見つかった鋳型の破片は石製で、長さ5.1センチ、幅2.5センチ、厚さ2.3センチ。ひもを通すつまみ「鈕(ちゅう)」が鏡の裏面に複数付いた「多鈕鏡」を製作する、国内で初めて見つかったタイプ。
多鈕鏡は国内で12例しか出土しておらず、これまで鋳型も見つかっていなかったため全て朝鮮半島から伝来したと考えられていたが、鋳型が発見されたことで国内で作られた可能性も出てきた。
破片には朝鮮半島製では見られない模様や、鈕部分の一部が残っていた。朝鮮半島でこの時期に作られていた多鈕鏡は精密な線の模様が施された「多鈕細文鏡」だが、見つかった鋳型は線が粗く、朝鮮半島製を模倣したとみられる。
市教委によると、剣や矛などの青銅器は、紀元前3世紀ごろに伝来してまもなく国内生産が始まった。一方、同遺跡の調査に携わった九州考古学会会長の武末純一・福岡大教授らによると、鏡の鋳型は寺徳古墳(福岡県久留米市)などの紀元後1世紀ごろの出土品が最古級とされていた。
遺跡の竪穴住居では昨年、鋳型と同時期の紀元前2世紀ごろの剣や矛など青銅器の鋳型が大量に出土。多鈕鏡の鋳型は近くの墓から見つかったが、石材が似ていることから同時期のものと判断したという。
鋳型は28日から6月3日まで、春日市奴国の丘歴史資料館で一般公開される。〔共同〕