2001年、不動産業者のラリー・シルバースタイン氏はニューヨークにあるツインタワーの賃借権を購入した。だがその数カ月後、その32億ドルの投資はアルカイダによる9.11同時テロで瓦礫(がれき)と化した。
83歳の同氏はそのとき「この街は死んではいないし、死なせるわけにはいかない」と再建を誓った。
ワン・ワールド・トレード・センター(中央)。29日に一般公開される=ロイター
今週、西半球で最も高い1776フィートのワン・ワールドトレードセンター(1WTC)の頂上の展望台が公開される。だが、マンハッタンの高層ビル群の中できらめくこのタワーは、復興のシンボルというよりはむしろ、米国の商業不動産市場がこの14年間でいかに変わったかをありありと見せつけるものとなっている。
■オフィス賃貸、3分の1以上が空室
1WTCのオフィス賃貸スペースの3分の1以上が開業から半年たった今も空室だ。アナリストや業界幹部は、従来入居していた金融サービス業や法律事務所が08年の金融危機の痛手からまだ立ち直っておらず、マンハッタンのダウンタウンで新規の商業用不動産を主に利用するのはもやはこうした企業ではなくなっていることも影響しているという。
これらの企業に代わり、新興のテクノロジー企業やメディア企業が入ってきており、この傾向はロンドンにまで波及している。
旧ワールドトレードセンターでは大手の銀行や金融サービス機関がテナントの半数以上を占めていたが、01年のテロ以降は別の場所に移り、戻ってきた企業はほとんどない。
「テクノロジー企業や出版社はWTCのオフィス獲得を試みているが、大手金融機関でそういう話は聞かない」と不動産会社コリアーズのマイケル・コーエン社長は言う。「大手銀行にとっては動かないのが最もコストの低い選択肢だ。(金融機関は)コスト管理がすべてだ」
米不動産サービス会社のジョーンズラングラサールによると、昨年はテクノロジー企業とメディア企業がマンハッタンのダウンタウンの新規賃貸契約の3分の1近くを占めた。これに対し、Fire(金融=finance、保険=insurance、不動産=real estateの頭文字をとったもの)による契約は17%にとどまった。マンハッタンに進出する新業種の増加傾向は顕著で、新たに「Tami」という造語まで生まれた。これはテクロノジー(technology)、広告(advertising)、メディア(media)、情報(information)の頭文字をとったものだ。