【アテネ=佐野彰洋】ギリシャのチプラス首相が28日夜、預金の引き出し制限などの「資本規制」導入を発表したことで、市民生活の混乱に拍車がかかっている。先行きに不安を抱く市民は資本規制の発表前から自衛策を講じており、ガソリンスタンドや銀行のATMには長い列ができ、一部の店舗ではクレジットカードの利用を拒否している。混乱が長引けば経済への悪影響は計り知れない。
ギリシャは金融支援の継続と引き換えに財政構造改革案の実行を迫る欧州連合(EU)に強く反発している。チプラス氏が27日未明のテレビ演説で、EU案受け入れの是非を問う国民投票を7月5日に実施すると突然発表した直後から、預金引き出しなどの動きが全国に広がった。
28日、アテネ市内の幹線道路では給油待ちの車列が至る所で出現した。約100メートルの車列の最後尾にいたタクシー運転手のニコスさん(45)は「ガソリンが手に入らなければ、収入が途絶えてしまう」と危機感を募らせる。石油精製最大手のヘレニック・ペトロリウムは「数カ月分の十分な在庫がある」との声明を発表し、落ち着いた行動をとるよう呼び掛けた。
手元になるべく多くの現金を確保しようとする市民らのATMへの行列は28日遅くまで続いた。アテネ市内の一部では、行列が200人規模に膨らみ、警官が誘導にあたった。英国放送協会(BBC)は預金者の殺到により、国内のATMの4割にしか現金が残っていないと報じた。
「現金払いしか受け付けない」。レストランや食料品店の中にはクレジットカードの利用を断り始めたところもある。国民投票の結果次第では、通貨ユーロからの離脱につながりかねないとの連想から、値上がりを懸念する食料品の買い占めが起きているとの情報もある。
基幹産業で、かき入れ時を迎えた観光への悪影響も懸念される。英国やドイツ政府は28日、旅行者に対し「十分な現金」を確保してからギリシャに向かうよう勧告した。安心して休暇を楽しめないとなれば、行き先を別の国に変更する動きが広がるおそれもある。
「ギリシャの日常を守るためにできることは何でもやる」。28日夕、バルファキス財務相は資本規制を巡る中銀総裁や民間銀行トップとの協議に臨んだ。協議開始前の発言から約4時間後、チプラス首相は資本規制の導入を発表した。