訪日外国人客の勢いが止まらない。リピーターになり、有名どころの観光では飽き足らない人も増えている。一歩進んだおもてなしが必要だ。その助言役を、日本に長く住む外国人に求めた。母国と日本の双方を知る立場なら、旅行者のツボが分かるはず。16カ国・地域出身の在日外国人100人に尋ねた。もしあなたが訪日旅行のガイドだったら――。
■地方の花火・夏祭り、巣鴨…
訪日外国人客は5月、前年同月比で5割も増えた。東京の有名スポット、大阪・京都に富士山はもちろん、箱根や北海道なども定番になっている。
「月に2、3回は友達を案内する」「娘と彼氏のためにプランを考えた」。今回、出会った在日外国人の皆さんは、社会人なら日本在住3年以上。母国の人たちの日本観光の窓口となり、すっかり腕利きガイドだ。一段深いプランを考えてもらうと、訪日旅行4つの鉱脈が見えてきた。
1つ目は「地方の花火・夏祭り」。限られた日しか味わえない特別感があり、すし詰めになる都心のイベントのように疲れ果てることもない。
マレーシアの黄志福さん(32)が挙げるのは茨城・古河や埼玉・戸田橋の花火大会。「地方でもマレーシアの花火とは桁違い。外国人専用の観覧席があればツアーも組みやすい」。フィリピンのアラン・レイエスさん(45)は盆踊りの魅力を語る。「フィリピンはパレードやショー中心。日本の夏祭りは皆で準備し、踊り、片付ける一体感が素晴らしい」
情報サイトのウォーカープラスの集計では、今年の花火大会の開催数は全国で約1100。トータルの集客力は大きい。「百貨店やスーパーの閉店が早すぎる」「やることがなくてホテルに戻る」という、夜の観光への不満の声もあった。都市部に泊まる外国人に、一足伸ばして花火に来てもらえば、食事などの波及効果も期待できる。
2つ目は「『外国人用』でない街」。銀座や新宿などは多言語対応も期待できるが、訪日も2度目3度目となればザ・観光地は物足りない。
20~30代の回答者が多く挙げた穴場の街は下北沢だ。新旧取り混ぜ個性的な店が多く、日本の若者の今を体感できる。「古着屋は最初は抵抗があったが、今は国の人にぜひ紹介したい」(マレーシアのキー・チョン・ジュンさん、22)。秋葉原に続くサブカルチャーの街として、中野ブロードウェイを擁する中野も支持された。
渋いところではお年寄りが集う巣鴨。香港の羽田ジェニーさん(48)は「土産を売ろう売ろうとする浅草と違い、お薦めを聞いたりおまけをもらったり会話を楽しめる」と話す。一般の観光客には、優秀な通訳がいることが条件になりそうだ。
日本では常軌を逸した人混みも観光名所になる。渋谷駅前のスクランブル交差点は写真撮影の定番スポット。シンガポールのパトリシア・チアさん(49)は「お薦めは午前8時15分の新宿駅。駅員が乗客を押し込む様子があり得ない」。ただこれらはいっときのネタで、多くの観光客は交通機関の混雑、レジや免税手続きを待つ長蛇の列にへきえきしている。3つ目の鉱脈は「喧噪(けんそう)からの脱出」だ。
フランスのフラヴィ・ドゥグランさん(31)は「静かで自然もあって、日本人の生活しているところが分かるような場所を薦めたい」。日暮里や谷中は観光客が増えてきたため、最近は等々力渓谷や玉川上水沿いを推している。
中国の王莉さん(36)はユニクロを希望されると、銀座店をざっと案内。実際の買い物は「すごく静かで落ち着いて選べる」西武新宿駅ビルの店舗に連れて行く。人気のチェーン店は本気で分散策を考えるべき時期かもしれない。