【ムンバイ=堀田隆文】インド準備銀行(中央銀行)は29日、金融政策決定会合を開き、政策金利(レポ金利)を7.25%から6.75%に引き下げた。今年4回目の利下げで、0.5%の下げ幅は市場予想を上回った。モディ政権のもと高成長への回帰が期待されるインドだが、政権の改革は遅れ、足元の景気拡大がもたつく懸念が出ている。ただ、原油安により利下げ余地が広がったインドは、利上げを迫られるブラジルやロシアと対照的な環境になっている。
今回の決定会合について、市場の大半は利下げを予想していたが、0.5%の下げ幅を予想する声はほとんどなかった。準備銀は今年1月に金融緩和に政策姿勢を転換して以来、計3回の利下げを実施したが、下げ幅はいずれも0.25%だった。市場にとって今回は「サプライズ利下げ」となったといえる。
ラジャン総裁は利下げ幅が大きくなった理由について、「世界経済は下り坂をたどっている」と指摘。そのうえで自国の設備稼働率の低さに言及し、企業投資の回復の鈍さを訴えた。
実際、2015年4~6月期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比7.0%となり1~3月の7.5%から鈍化しており、足を引っ張ったのが設備投資の伸び悩みだった。設備投資は4.9%増にとどまり、個人消費の7.4%増に比べ見劣りした。インドの大手格付け会社インディア・レーティングス・アンド・リサーチは「主要企業の設備稼働率はこの10年間でみても、最も低い水準にとどまっている」と推計する。
ラジャン総裁は市場予想を上回る幅の利下げを実行したことについて「積極的過ぎるとは思っていない。環境は整っていた」と述べた。
これまでインドの金融政策を縛ってきた物価上昇は原油安の恩恵もあり、大幅に鈍化している。消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は足元は3%台で、1年前の半分の水準だ。準備銀はこれまで16年1月にCPIを「6%以下」とする目標を掲げてきたが、ラジャン総裁は「この目標は達成できるだろう」と今回、初めて明言。今後の物価抑制に自信をみせた。
インドにとって金融緩和に踏み込む際の脅威となりうる米国の利上げが当初考えられていた9月に実施されなかったことも、今回の判断を後押しした。
ラジャン総裁は「準備銀の金融緩和姿勢は継続する」と話した。ただし、準備銀行が金融政策で“奮闘”しても肝心の政府の改革が進まなければ、安定した成長軌道は望めない。モディ政権が改革の目玉とする土地収用法の改正、大型の税制改正はいずれも国会の審議が長引き、実現のめどが立たない状況だ。企業のビジネス環境を大幅改善を見込む改革がさらに遅延すれば、企業活動の活性化もそれだけ遠のくことになる。
準備銀自体が29日、16年3月期の成長予想を下方修正した。経済成長を表す粗付加価値(GVA)の実質成長率予測を従来の7.6%から7.4%に引き下げた。他の新興国に比べ、高成長への期待が大きいインドだが、先行きには不透明感がぬぐえない。