故リチャード・ホルブルック氏によると、バラク・オバマ大統領はアフガニスタンについて議論する際にベトナム戦争に言及することを一切禁じた。オバマ氏の「アフパック」※特別代表として2010年に仕事中に倒れて死去したホルブルック氏は、米HBOの感動的なドキュメンタリー番組「ザ・ディプロマット」で墓場から戻ってくる。
※09年3月にオバマ大統領が発表した、アフガニスタンとパキスタンを巡る包括戦略。軍事・外交両面の関与拡大、両国政府への支援増強を柱とする。
アフガニスタン撤退の方針を撤回したオバマ米大統領(15日)=ロイター
来月の映画初公開は、時折あるタイミングの皮肉だ。ホルブルック氏は、オバマ氏が決めたアフガニスタンへの期限付き米軍増派はうまくいかないと明言していた。国を安定させるには、米軍駐留の期間が短すぎ、部隊が手を広げすぎることになる、というのがその理由だった。ホワイトハウスはホルブルック氏を排斥した。
■終わりの分からない計画
ところが先週、オバマ氏は暗黙のうちにホルブルック氏の主張を認めた。米軍はオバマ氏の大統領の任期が終わった後もアフガニスタンに残ることになった。これがどこで終わるのかは誰にも分からない。
ベトナム戦争との対比は大げさかもしれない。1968年のベトナム戦争のピーク時には、米国は50万人以上の兵士をベトナムに配備していた。一方、アフガニスタンには現在9万8000人の米兵が駐留しており、オバマ氏はほぼ来年いっぱい、この水準を維持する構えだ。ベトナムで6万人近い米兵が命を落としたのに対し、アフガニスタンでの死者数はこれまでで2500人足らずだ。
だが、厄介な類似点もある。サイゴンでは、カブールと同様、米国はゲリラ戦を繰り広げる一途な敵を相手に、成果を出せない文民政権を支えるのに苦労した。アシュラフ・ガニ大統領率いるアフガニスタン政府は、前任のハーミド・カルザイ氏の政府ほど腐敗していないかもしれないし、腐敗の度合いでは、サイゴンで米国が支援した歴代指導者よりはるかにましかもしれない。
だが、いまだに、言及に値するようなアフガニスタン空軍は存在しない。一方、米国が訓練を施したアフガニスタン軍では、相変わらず任務放棄が多発している。誰もタリバンを訓練していないのに、タリバンはアフガン全土で領土を奪還し続けている。
それ以上に重要なのは、オバマ氏の新計画に確かな終盤戦のプランがないことだ。この頭痛の種は、オバマ氏の後継者に受け継がれることになる。ベトナムとの類似点が最も著しいのは、ここだ。ホルブルック氏がキャリアのスタートを切ったのは、南ベトナムだった。押しの強い若手外交官だった同氏が上司らに言い続けたように、米国は、何千人もの人命喪失は国益によって正当化されないという事実を受け入れなかった。外国勢力、特にソ連と中国がベトコンの反乱をあおるのを食い止めない限り、米国は負けると同氏は主張した。