【ブリュッセル=森本学】欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は21日、米スターバックスと欧米自動車大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズが欧州で受けた優遇税制が「違法」だったとの判断を公表した。税優遇を提供したオランダとルクセンブルクに、過去の優遇分を追加徴税で取り戻すよう指示。金額はそれぞれ2000万~3000万ユーロ(27億~41億円)に達する見通しだ。
欧州委はスターバックスがオランダから、フィアットがルクセンブルクから、一部の企業だけを支援して公正な競争を妨げる違法な「国家補助」を受けていたと判断した。欧州委は2014年6月に両社の本格調査に着手していた。
欧州委で競争政策を担当するベステアー委員は21日の記者会見で「今回の決定は各国の税務当局に対し、いかなる企業にも競争を損ねる優遇措置を与えてはならないという明確なメッセージを送っている」と強調した。
欧州委の公表によると、米スターバックスはオランダの製造子会社が税負担を低く抑える違法な優遇措置を受けていた。具体的には、英国のグループ企業へ多額の技術料を支払うなどして、オランダでの法人税の納税額を少なく済ませる課税手法を認めていたという。
一方、フィアットはルクセンブルクにある金融部門が違法な税優遇を受けていたと指摘。資本金などを少なく見積もり、法人税の課税所得を実際の20分の1程度に抑えていたという。
ただ欧州委の公表を受け、スターバックスは「今回の決定には重大な誤りがある」との声明を公表。オランダ当局も「スターバックスに適用した手法は国際的にも認められている」と反論した。ルクセンブルク当局も「欧州委の結論には同意できない」とさっそく反対意見を表明した。
欧州委は多国籍企業の税制を巡って今回判断を公表した2社に加え、アイルランドによる米アップル、ルクセンブルクによる米アマゾンへの税優遇でも正式調査を進めている。今回の判断を機に欧州委は多国籍企業の「租税回避」へ対抗姿勢を強める方針。欧州に進出するグローバル企業は税務戦略の立て直しを迫られる可能性が大きい。
多国籍企業への課税を巡っては、20カ国・地域(G20)がタックスヘイブン(租税回避地)などを経由する「租税回避」の防止で協調する新ルールを採択。世界レベルで課税強化が進んでいる。
▼法人税優遇をめぐる租税回避問題 国際的な企業が利益などを低税率の国に移転し課税額をなるべく低く抑える動きに対し、欧米主要国は「課税逃れ」として監視を強めている。カリブ諸島やケイマン諸島などにある「タックスヘイブン(租税回避地)」だけでなく、オランダやアイルランドなど一部の欧州連合(EU)加盟国は特定の企業に優遇措置を与え、投資を促してきた。各国での法人税率引き下げが進み多国籍企業が国を選ぶようになったことで、税率の差を悪用した税逃れが横行している。