大阪市東住吉区で1995年、女児(当時11)が焼死した火災で無期懲役が確定した母親ら元被告2人に対し、23日の大阪高裁決定は大阪地裁に続いて再審開始を認める判断を示した。捜査官の誘導などの可能性を指摘し、自白偏重の捜査に改めて警鐘を鳴らした形。再現実験など科学的検証を積み重ねて結論を導き出し、客観的な証拠を重視する姿勢を明確にした。
火災が発生したのは95年7月22日。大阪市東住吉区で民家が全焼し、1階の風呂場で入浴中だった女児が死亡した。
風呂場に隣接した車庫の床にガソリンをまいて火を付け、保険金目的で女児を殺害したとして、女児の母親の青木恵子元被告(51)=服役中=と、当時内縁の夫だった朴龍晧元被告(49)=同=が殺人罪などで起訴され、2006年に最高裁で無期懲役が確定した。
2人は無罪を主張していたが、捜査段階の「ガソリン約7リットルを車庫の床にまき、ライターで放火した」との朴元被告の自白が確定判決の決め手となった。
しかし、23日の高裁決定は供述に至る経緯を検証。青木元被告の取り調べ中に捜査員が大声で事件とは無関係な私的な出来事を問い詰めたり、体調が悪化する中で自白調書を作成させたりした点を指摘した。朴元被告が捜査段階で具体的に犯行状況を説明するに至った経緯も「捜査官の誘導による疑いが否定できない」と疑問を呈した。
12年の大阪地裁の再審開始決定の決め手になったのは、弁護団が実施した燃焼再現実験。現場の状況を再現した小屋で、風呂釜のガスバーナーを当時と同じ種火の状態にしてガソリンをまいた。
弁護団はその結果を踏まえて「自白通りに放火すれば自分が大やけどを負うはず」とし、車から漏れたガソリンによる自然発火の可能性を指摘した。
高裁は新たな再現実験や専門家による鑑定など科学的検証を繰り返し、審理期間は大阪地裁の再審請求審を上回る3年超に及んだ。そのうえで、車の給油口からガソリンが漏れ、種火に引火した自然発火の可能性について「具体的で現実性がある」と地裁決定よりも踏み込んだ判断を示した。
検察側は特別抗告して最高裁の判断を仰ぐことができるが、憲法違反や判例違反が要件となるため、高裁の判断を覆すハードルは高い。高裁決定が認めた刑の執行停止については、検察側はすでに異議を申し立てており、高裁の別の部が近く判断を示す。