米ゼネラル・エレクトリック(GE)社が合成ダイヤモンドの商業化に成功したと公表して今年で60年が経過した。合成ダイヤは研磨材として工業用途で広く活用されてきたが、合成技術が進展して、最近では宝飾品としても販売されるようになった。人工的に合成するとはいえ、天然品と同じ炭素から作られる本物のダイヤモンド。輝きや性質に差はなく、海外では合成ダイヤの市場も存在する。ただ、業界関係者らは「天然品の市場にこっそり流れ込んでいるかも」と気をもんでいる。
天然品では数千万円する色付きダイヤも比較的簡単に合成できる。
9月中旬、香港で世界最大規模の宝飾展示会が開かれた。世界中から宝飾関連業者が集まり、販売ブースを設けたり、オークションを開催したりして、業界が最もにぎわうイベントだ。そんな会場の一画に中国の合成ダイヤモンド業者が販売ブースを置いた。「Lab―created Diamond」とタグが掲げられた。3年ほど前から展示会に参加するようになったという。
合成ダイヤモンドは地中から採掘されないだけで、偽物ではない。マグマの近くで時間をかけて生成される天然ダイヤモンドに対して、合成品は高温高圧という状況で炭素から人工的に作り出す。掘り出されるまでに何万年もかかる天然品に比べ、合成品は機械の中で1~2週間でできてしまう。
都内の貴金属会社の幹部に聞いてみると「香港の展示会でブースが並びだした当初は、まだ天然品より高かった」という。製造コストが採掘コストより高く、無色透明の標準品だと2倍の値付けがされていた。そのため、宝飾市場で合成品は普及しないというのが通説だった。しかし、技術は進み、コストは下がった。今は価格にあまり差がない。むしろ合成品に割安感が出てきている。
宝飾向けの合成ダイヤモンドは中国だけでなく、イスラエルや米国などでも作られている。宝飾向けを生産販売する会社は合成ダイヤモンドであることを公言して売っている。米国の小売店では天然品と合成品の売り場は分けられており、部外者からは天然と合成の市場が分離しているように見える。
カット前の合成ダイヤ。遺骨が300グラムあれば1カラット作れる
技術の進歩で合成ダイヤモンドを作りやすくなり、新しいビジネスも生まれた。スイスに拠点を構えるアルゴダンザは遺骨から取り出した炭素をダイヤモンドにする。「故人がまだ一緒にいるのだと実感してほしい。それがこのビジネスの価値」とアルゴダンザ・ジャパン(静岡市)の法月雅喜代表取締役。同社の場合、0.2カラットのサイズで48万円で出来る。日本国内では2005年以降で1500件の依頼があったという。
同社で記者が見せてもらった合成ダイヤモンドには民間の検査機関である中央宝石研究所(東京・台東)の鑑別書がついていた。鑑別書には「合成ダイヤモンド」と書き込まれていたが、透明度や色合い、カットの美しさという品質は評価されていない。