日本経済新聞社が30日午後、環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意を受けて都内の大手町・日経ホールで開いた緊急シンポジウムでは、「TPPで世界はどう変わる」をテーマに有識者がパネル討論した。参加者からは期待の声が相次ぐ一方、具体的な効果などを注視したいとの見方も聞かれた。参加者は丸紅経済研究所の美甘(みかも)哲秀所長、ヤマト運輸の梅津克彦執行役員、ニュージーランドの乳業最大手、フォンテラ傘下のフォンテラジャパンの斎藤康博社長、川瀬剛志上智大教授、みずほ総合研究所の菅原淳一上席主任研究員。
討論する(右から)菅原、川瀬、斎藤、梅津、美甘の各氏(30日午後、東京・大手町)
みずほ総研の菅原氏はTPPが「21世紀型のメガ自由貿易協定(FTA)」と称されることを引き合いに「日本のこれまでの経済連携協定(EPA)に比べ階段が上がった」と評価。丸紅経済研究所の美甘氏は、円高や高い法人税率など日本企業が直面した「六重苦」について「企業を取り巻く環境が改善してきた」と語り、TPPが中長期的に投資円滑化などのメリットをもたらすとした。ヤマト運輸の梅津克彦氏は、インドネシアのジョコ大統領がTPP参加に意欲を示したことで「(加盟が)他の国に拡大するスピードが速まるかもしれない」と期待した。
一方で懸念も聞かれた。フォンテラジャパンの斎藤氏は、国内の酪農家の減少が続いている点を踏まえ、日本がコメや乳製品など農産物重要5品目の保護方針を貫いたことに「市場から守ったことで調達時には『買い負ける』可能性もある」と指摘。TPPは「長期的に全体で見ればポジティブな内容」と評価しつつ、需給の逼迫時に輸入増を目指す場合などに足かせになる場合もあり得ると見通した。
上智大の川瀬氏は「TPPという仏に魂を入れるには、執行の監視が重要だ」との考えを示した。協定の批准に至るまで、米議会の手続きの行方などを注視する必要があるとも述べた。〔日経QUICKニュース(NQN)〕