2014年と12年にエスカレーターが逆走して負傷者が出た2件の事故で、国土交通省の社会資本整備審議会は9日、いずれも保守点検の不備でチェーンが破断し、逆走防止装置が作動しなかったことが原因とする報告書を公表した。国交省は業者に保守点検の徹底を指導するほか、定期点検の抜き打ち調査を実施する方針だ。
川崎市の武蔵小杉駅構内で14年1月8日午前、上りエスカレーターが逆走し、利用者が折り重なるように転倒した事故では、1人が重傷、10人が軽傷を負った。
エスカレーターは2階部分に設置したモーターの動力をチェーンで歯車に伝え、ステップを動かす仕組み。製造会社は三菱電機で、三菱電機ビルテクノサービスが保守を担当していた。
報告書は、逆走のきっかけとなったのは駆動チェーンが金属疲労によって破断したことが原因とした上で、「保守点検時の調整に不備があった」と指摘した。
破断したチェーンは設置当初から約18年間交換されていなかった。事故時には推定6~7センチ以上のたるみが発生し、破断につながったとした。13年3月の定期検査でチェーンのたるみが記録されていたが、調整された記録はなかった。
逆走防止装置も作動しなかった。報告書はチェーンを動かす装置と防止装置をつなぐ棒が摩耗し、潤滑油などが固着して正常に動かなかったと分析。事故5日前に事故機は非常停止し、保守点検が実施されたが、報告書は「作業員が防止装置のスイッチが入りにくい方向に調整した」とミスを指摘した。
千葉県船橋市のJR西船橋駅では12年12月、上りエスカレーターのチェーンが破断して逆走し、2人が軽傷を負った。製造会社は日立製作所で、保守は日立ビルシステムだった。
報告書は、04年か06年の保守点検時に調整ミスがあり、チェーンに繰り返し大きな負荷がかかったと分析。08年7月の保守点検で調整ミスは改善されたが、チェーン交換はされず、「調整ミスの間の負荷が原因となって破断した」とみている。
国交省は再発防止のため、チェーンを交換する目安など保守点検基準を明確にする。また、保守会社の点検状況を抜き打ちで調査する方針だ。